インスペクション(建物状況調査)とは?意味や効果・費用を徹底解説

2018/10/26

インスペクションとは、既存住宅の基礎、外壁等の部位ごとに生じているひび割れ、雨漏り等の劣化・不具合の有無を目視、計測等により行う調査のことです。

日本語では建物状況調査と呼ばれています。

 

インスペクションとは、どのようなものなのでしょうか?

やる意味はあるのでしょうか?

費用はどの程度かかるのでしょうか?

 

この記事ではインスペクションについて詳しく解説致します。

この記事の筆者:竹内英二 (不動産鑑定事務所:株式会社グロープロフィット代表取締役)
保有資格:不動産鑑定士・宅地建物取引士・中小企業診断士・不動産コンサルティングマスター・相続対策専門士・賃貸不動産経営管理士・不動産キャリアパーソン

 

1.インスペクションの意味

インスペクション(inspection)とは、「点検・検査・精査」といった意味があります。

不動産売却でいうインスペクションは建物状況調査のことです。

 

インスペクションは、既存住宅状況調査技術者講習を修了した建築士が、国の定めた既存住宅状況調査方法基準に従って行います。

 

調査対象となるのは、新築を除く中古住宅であり、戸建住宅やマンションの他、アパートなどの賃貸住宅も対象としています。

店舗や事務所は調査対象とはなりません。

 

インスペクションでは、以下の部分の調査を行います。

対象はあくまでも建物だけであり、土地の土壌汚染調査などは含まれません。

 

【戸建住宅(木造・在来軸組工法)の場合】


小屋組、屋根版、斜材、壁、横架材、柱、床版、土台、基礎(構造耐力上主要部分)

屋根、開口部、外壁(雨水の侵入を防止する部分)


 

【共同住宅(鉄筋コンクリート造・壁式工法)の場合】


屋根版、床版、外壁、壁、床版、基礎、基礎杭(構造耐力上主要部分)

屋根、排水管、開口部、外壁(雨水の侵入を防止する部分)


 

インスペクションに合格すると、以下のようなメリットがあります。

 

【インスペクションのメリット】


1.第三者のお墨付きがもらえるため、買主に安心感を与えることができる。

2.合格すると既存住宅売買瑕疵保険(以下「瑕疵担保保険」と略)に加入できる。

3.売却後のトラブル発生を抑制することができる。


 

公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会では、2017年11月に不動産の日アンケートで買主に中古住宅の購入で必要と思われることについて調査を行っています。

 

アンケート結果では、買主が「インスペクションが付いていること(62.8%)」をかなり高い割合で求めていることが分かります。

「とにかく価格が安いこと(9.9%)」と比べると、大きな期待値です。

 

買主は単純に価格より、建物に対する安心感を求めているということが良く分かります。

 

コラム~既存住宅売買瑕疵保険とは~


新耐震基準※を満たした住宅は、インスペクションに合格すると、瑕疵担保保険に加入することができます。

※昭和56(1981)年6月1日以降に建築確認申請を行って建てられた建物

 

瑕疵担保保険とは、構造耐力上主要な部分および雨水の浸入を防止する部分等について瑕疵(カシ)が発見されたときは、その修補費用が支払われる保険のことをいいます。

瑕疵とは、建物の雨漏り等の通常有すべき品質を欠くことをいいます。

また瑕疵担保保険に加入している物件は、買主が「不動産取得税」や「登録免許銭」、「住宅ローン控除」、「すまい給付金」等の税金軽減が可能となるメリットがあります。

瑕疵担保保険は、買主へ税金軽減という経済的メリットを与えることができるのです。


 

関連記事


既存住宅売買瑕疵保険とは?メリットや費用・付保証明書を徹底解説


 

2.インスペクションの義務化とは?やらなくてもよい?

インスペクションは、2018年4月1日から「不動産会社」から売主や買主に対して「インスペクションのあっせんの有無」についての説明がなされるようになりました。

 

正確には義務化された部分は、不動産会社による媒介契約書への「建物状況調査を実施する者のあっせんの有無」についての記載です。

記載をする以上、売主や買主にインスペクションの制度の紹介やあっせんすることが不動産会社に期待されています。

 

売主や買主が、インスペクションをやらなければいけなくなったということではありません。

 

売主や買主から「インスペクションはやらなくてもよいのですか?」という質問があれば、「義務ではないので、やらなくてもよい」という回答になります。

 

インスペクションは認知度が浅く、不動産会社もインスペクションをあっせんしてくるため、「やらなきゃいけないの?」と思われがちですが、売主や買主に実施する義務はありません。

 

義務があるのは、あくまでも不動産会社の媒介契約書への記載義務です。

 

特に戸建て住宅の売主であればおススメするものの、無理に行う必要はないということになります。

インスペクションには一定のメリットがありますが、最終的にはご自身の判断で実施を決めるようにしてください。

3.インスペクションは意味があるか

「インスペクションは意味があるか」と聞かれてしまうと、答えは微妙です。

あえて回答するなら、「とても意味のある物件」と「ほとんど意味のない物件」があるという回答になります。

 

公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会では、2017年3月に土地・住宅に関する消費者アンケート調査を行っていますが、その中でインスペクションの利用効果について公表しています。

 

アンケート結果を見る限り、「自宅の売却が希望価格で売れた(64.3%)」が1位、「買手が早く見つかり売却がスムーズにできた(51.8%)」が2位となっており、一定の意味はあります。

 

ただし、「検査の結果、価格の値引きを求められた(21.4%)」3位、「検査の結果、住宅の補修を求められた(10.7%)」5位もあり、インスペクションを行うことによって逆にデメリットが発生してしまうこともあります。

 

インスペクションは、一般的にマンションよりも戸建ての方が効果は高いです。

戸建ては、木造であり購入者が躯体に対する一定の不安があるため、インスペクションを行っておくと、買主に安心感を与えることができます。

 

特に、注文住宅で中小の工務店が建築したような家の場合、信頼性が低いことがあります。また、過去に不祥事のあったようなハウスメーカーが施工している戸建ても購入者には一定の不安が残ります。

 

このような戸建住宅であれば、インスペクションを行うと、購入者の不安が払しょくされるため、効果が高くなります。

 

ただし、元々、何をやっても売れないようなエリアに存在する空き家では、インスペクションを実施しても効果は低いです。

 

インスペクションは、市場性があるエリアに存在する戸建てで行うのが最も効果があります。

 

一方で、マンションの場合、鉄筋コンクリート造であり購入者が躯体に対しては不安を抱いていないことがほとんどです。

そのため、インスペクションだけだと効果はあまり高くはありません。

 

マンションでインペクションを行うのであれば、瑕疵担保保険の付保まで行うことをおススメします。

 

瑕疵担保保険を付保すれば、築25年超のマンションであっても、買主には登録免許税や住宅ローン等の減免を受けることができる税制メリットがあります。

 

築25年超の中古マンションであれば瑕疵担保保険までセットで行えば、かなり意味が出てくるでしょう。

 

インスペクションの意味がある物件と意味がない物件をまとめると以下のようになります。

 

関連記事


インスペクションは意味があるか?やらなくてもよい?判断の仕方を解説

誰もが知りたいマンション売却の10個の流れと高く売却する方法を解説


 

4.インスペクションの費用

インスペクションの費用は実施業者によって異なります。

相場としては5万円程度です。

オプション等を付けて高額な検査をすれば20万円くらいにもなることもあります。

 

参考までに一般的なインスペクション費用をご紹介します。

 

【戸建て住宅】

 

【マンション】

 

また、給排水管路検査などのオプションを加えると、プラス5,000円程度かかります。

 

尚、インスペクションは「既存住宅状況調査技術者講習を修了した建築士」かつ「保険法人の登録検査事業者」であれば、合格後確実に瑕疵担保保険を付保できるため間違いがありません。

 

「保険法人の登録検査事業者ではない検査事業者」では、インスペクションに合格しても瑕疵担保保険の付保要件を満たしておらず、保険に加入できないことがあります。

 

念のため、不動産会社へは「瑕疵担保保険に付保できる検査会社にして欲しい」と依頼するようにして下さい。

 

5.インスペクションの所要時間・所要期間

インスペクションの所要時間は3時間程度です。

つまり半日もあれば終わってしまいます。

もちろん、居住中であってもインスペクションを実施することが可能です。

 

ただし、インスペクションでは、床下や天井裏の調査も行う必要があります。

床下に潜ることができない場合や、天井の点検口が無い場合、一部を解体して調査を行う必要も出てきます。

 

点検口が荷物や家具でふさがれていると点検できないため、検査をスムーズに行うために、点検口は開くことができる状態にしておきましょう。

 

また、インスペクションの所要期間は、検査申し込みから報告書の受領まで2週間程度かかります。

検査を申し込んだ後、日程調整して検査実施するまで約1週間、検査実施後報告書作成で約1週間となり、合計で約2週間のタイムスケジュールとなります。

 

ただし、現在、地方ではインスペクターが不足しているため、インスペクターの確保までに時間がかかっている現状があります。

都心なら申し込みから2週間程度で結果が出ますが、地方だともっと時間がかかる可能性が高いです。

 

6.インスペクションの費用負担

インスペクションは売主のみならず、買主の費用負担で行うこともできます

 

インスペクション先進国であるアメリカでは、買主が自分の費用でインスペクションを行うことが通常です。

 

アメリカは性悪説に立っていますので、売主が行うインスペクションは信用できないといった背景があります。

 

インスペクションのあっせんは、買主に対しても行うことが義務化されています。

そのため、買主がインスペクションを行いたいと言ってくるケースは、今後増えるものと思われます。

 

仮に購入希望者がインスペクションを実施したいと申し出てきた場合には、ぜひ前向きに応諾することをおススメします。

 

購入希望者が自らの費用をかけてでもインスペクションをしたいということは、相当、購入の本気度が高いことの証です。

 

ここで断ってしまうと、何か隠しているのではないかと思われるため、得策ではありません。

せっかくインスペクションをしたいと言ってきているので、購入希望者からの申出は、快く応諾するようにしてください、

 

購入希望者がインスペクションを行う場合には、当然に売主の承諾が必要です。

購入希望者によるインスペクションの実施は、売買契約の前になります。

 

ただし、購入希望者がインスペクションを行った場合、もちろん結果次第では購入見送りということもありえます。

 

よって、購入希望者がインスペクションを依頼する場合、購入見送りになった場合を含めて、調査後の情報の取扱について、協議しておく必要があります。

 

具体的には、「建物状況調査報告書の写しを売主へ引き渡す」ことと、「情報については他言無用とする」という2点を取り決めておくことがポイントです。

 

購入希望者がインスペクションは、次章に示す合意書を締結しておくことをおススメします。

 

7.購入希望者がインスペクションを行う際の合意書(ワード書式)

購入希望者がインスペクションを行う場合は、事前に以下のような合意書を締結します。

参考までに「建物状況調査に関する合意書」のワード(word)書式を載せておきます。

ぜひご利用ください。


建物状況調査に関する合意書


 

8.まとめ

以上、インスペクション(建物状況調査)とは?意味や効果・費用を徹底解説について見てきました。

 

インスペクションは、中古住宅を売却しやすくしてくれる効果があります。

メリットを踏まえて前向きに検討してみましょう。