不動産取引の中で非常に分かりにくい言葉の一つに「停止条件」があります。
停止条件は、言葉のイメージからすると「条件が整ったら停止するの?」と勘違いしている人も多いです。
停止条件とは、停止する条件ではなく、「停止させている条件」になります。
一方で、似たような言葉に「解除条件」があります。
解除条件は、言葉のイメージ通りで、条件が整うと契約が解除されるという条件です。
停止条件は、言葉が分かりにくく、「なぜ停止?」、「由来は?」と検索している人も多いです。
解除条件のような似た言葉も存在するため、良く分からないという人もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで、この記事では「停止条件」について解説致します。
この記事を読むことで、停止条件とは何か、解除条件との違いは何か、具体例や停止条件成就までに発生する金員の取扱について分かるようになります。
ぜひ最後までご覧ください。
この記事の筆者:竹内英二 (不動産鑑定事務所:株式会社グロープロフィット代表取締役) 保有資格:不動産鑑定士・宅地建物取引士・中小企業診断士・不動産コンサルティングマスター・相続対策専門士・賃貸不動産経営管理士・不動産キャリアパーソン |
1.停止条件とは
停止条件とは、条件が成就するまでの間、法律効果の発生を停止しておく条件のことです。
法律効果とは例えば、売買契約の成立など、法律行為の効力が発生するものを指します。
停止条件とは、具体的には「試験に合格したら100万円あげる」といった条件です。
停止条件付き契約は、お互い契約の意思があるのですが、条件が整っていないので、前に進めず停止している状態の契約のことを指します。
上図は、契約成立の前の位置で、シャッターがあるために車が停止しています。
このシャッターの部分が「停止条件」に相当します。
停止条件が成就すると、シャッターがガラガラっと上がり、車が前に進んで契約の効果が発生するというのが停止条件付き契約です。
「試験に合格したら100万円あげる」となると、「100万円をあげます・100万円をもらいます」というのが契約当事者の意思です。
そこに「試験に合格したら」という停止条件が加わります。
当事者は、「100万円をあげます・100万円をもらいます」という意思はあるものの、「試験に合格」という条件を満たしていないため、契約効果は発生せず停止しているというのが停止条件付き契約ということです。
「試験に合格」のような条件が満たされることを、条件成就といいます。
それに対して試験に不合格となった場合は、条件不成就です。
条件不成就となれば、そのまま契約は成立しません。
停止条件付契約は、条件が成就していない段階では契約の効果が発生していないということがポイントです。
契約効果の発生は、あくまでも条件成就以降になります。
停止条件は、「停止」という言葉が入っているため、条件が成就すると契約が停止する、つまり「不成立になる」イメージを持つ人が多いです。
しかしながら、言葉の意味としては逆になります。
停止条件は、契約を「停止する」条件ではなく、「停止させている」条件であるため、条件が成就すると契約の効果が発生するのです。
2.解除条件との違い
停止条件と類似のものに解除条件があります。
解除条件とは、条件の成就によって法律効果の効力が消滅する条件のことです。
解除とは、成立した契約の効力から当事者を開放し、契約がなかったものとして処理することを指します。
解除条件とは、例えば「試験に不合格となったら100万円はあげる話は止める」という条件です。
既に「100万円をあげます・100万円をもらいます」という契約は成立しているのですが、「試験に不合格したら」という条件が成就してしまうと、その契約はなかったものになります。
停止条件と同じではないかと思うかもしれませんが、停止条件付き契約では契約効果はまだ生じていないのに対し、解除付き条件では既に契約効果は生じているという点が大きな違いです。
【停止条件と解除条件の違い】
- 停止条件付法律行為は、停止条件が成就した時からその効力を生ずる。
- 解除条件付法律行為は、解除条件が成就した時からその効力を失う。
図で表すと、停止条件とは全く逆となり、解除条件付き契約では、契約締結時点で契約効果は発生しています。
そこに条件成就が生じると、その時点で契約がなかったものになります。
解除条件は、既に契約効果が発生していることから、条件が成就するまで権利と義務も発生しています。
解除条件で良く用いられる例は、「留年したら毎月5万円の仕送りを止める」という話です。
「毎月5万円あげます・毎月5万円貰います」という契約関係は既に成立しているため、それに基づき契約は実行され続けます。
ところが、「留年したら」という条件が成就してしまうと、仕送りの契約関係は解除されるということです。
解除条件では、契約が既に成立しているので、契約成就までの間に「仕送りをしなかった」ことで損害が発生した場合、費用等を請求することができます。
仮に条件不成就になってとしても、条件不成就までの間は契約が有効になるわけですから、お互いに義務を履行しなければいけないのです。
一方で、停止条件では、契約効果が発生していないため、契約が成就するまでは義務を履行することはありません。
仮に条件不成就によって損害が発生したとしても、元々契約効果が発生していなかったわけですから、費用等は請求できないことになります。
3.停止条件の具体例
この章では停止条件の具体例について紹介します。
3-1.農地転用の売買
不動産の売買で停止条件が最も良く用いられるケースは、農地転用を条件とした売買です。
農地は、勝手に売却することはできず、第三者に農地以外に転用して売却する場合、農地法5条の許可が必要となります。
農地転用は行政許可であるため、「本当に許可が下りるのか」、「いつ許可が下りるのか」が不明瞭です。
一方で、お互い農地転用の許可が下りたら「売りたい・買いたい」という意思がはっきりしています。
そこで、条件付き売買を利用するのがお互い都合が良いということになります。
では、条件付き売買といっても、停止条件とするか、解除条件とするかという選択の問題が生じます。
ここで関係するのが農地法です。
農地法では、農地を農地以外として第三者に売却するとき、農地法5条の許可が必要となりますが、無許可で契約した場合には契約の効力が生じないこととなっています。
つまり、農地法5条の許可が取れていない段階で契約しても、契約は無効です。
そのため、解除条件を選択して先に契約効果を発生させたとしても、農地法5条の許可が取れていない段階の契約は無効であるため、意味がないことになります。
そこで、都合が良いのが停止条件です。
停止条件なら、条件成就の後に契約効果が発生します。
農地転用の場合、農地転用の許可が取れた段階で、はじめて契約が有効になる条件が整います。
よって、条件成就の後に契約効果が発生する停止条件の方が、都合が良いのです。
このように行政許可関係が下りないと契約が無効となるケースでは、停止条件が良く用いられます。
農地転用の売買は、停止条件が最もよく使われる典型的なケースなのです。
3-2.建築条件付き売買
一方で、行政許可要件以外での条件付き売買では。「停止条件」も「解除条件」も大差がないことから、両方が使われていることが多いです。
例えば、建築条件付き売買では停止条件と解除条件の両方のケースがあります。
建築条件付き売買とは、土地の売買契約を締結するに当たって、 その土地の売主が自己または自己の指定する建築業者と一定期間内に建物の建築請負契約を結ぶことを条件がある売買のことです。
建築条件付き売買で、停止条件とするパターンの契約書の条文は以下のようになります。
(停止条件のパターン)
1.買主は、本土地上に建物を建築するための工事の請負契約を、別途、○○株式会社と締結するものとします。
2.本契約締結の日から○○以内に、前項に定める建築工事請負契約を締結されたときに、本契約は効力が発生します。
その期間内に建築工事請負契約が締結されないことが確定したときは、本契約は白紙となり、売主は、受領済みの金員を無利息にて速やかに買主に返還するものとします。
3.売主は、第2項により本契約が解除されたことを理由として、買主に対し損害賠償等の請求はしないものとします。
「○○となったときに、本契約の効力が発生」という部分が停止条件特有の言い回しになります。
また、手付金等の既に受領している金員の扱い、損害賠償や違約金請求の可否等の扱いについて、明記しているという点がポイントです。
一方で、建築条件付き売買で、解除条件とするパターンの契約書の条文は以下のようになります。
(解除条件のパターン)
1.買主は、本土地上に建物を建築するための工事の請負う契約を、別途、○○株しい会社と締結するものとします。
2.本契約締結の日から○○以内に、前項に定める建築工事請負契約を締結しないことが確定したときは、本契約は解除となります。
3.前項に基づいて本契約が解除された場合、売主は、受領済みの金員を無利息にて速やかに買主に返還するものとします。
4.売主は、第2項により本契約が解除されたことを理由として、買主に対し損害賠償等の請求はしないものとします。
「○○のときは、本契約は解除」という部分が解除条件特有の言い回しとなります。
建築条件付き売買のような条件付き売買の場合、停止条件でも解除条件でも、実質的には同じです。
重要なのは、条件が成就するとどうなるか、不成就となるとどうなるかという点に関し、売主と買主がしっかり理解した上で契約するということです。
4.停止条件成就までに発生する金員の取扱
この章では、停止条件成就までに発生する金員の取扱について解説します。
4-1.手付金
不動産の売買では、売買契約日と引渡日は別になることが通常です。
不動産売買では、売買契約時に買主が手付金を売主へ支払います。
手付金は、契約の成立を証拠立てる証約手付の効果があるとともに、引渡までの間の契約解除のための違約金としても利用されます。
売買契約が成立した後、買主は手付金を放棄し、売主は手付金の倍返しをすれば契約解除を可能としてくれるのが手付金です。
そのため、手付金は契約が成立する時点で支払われるものとなります。
ところが、実際の停止条件付き売買では、売買契約時に手付金が支払われることが良くあります。
停止条件付き売買では、契約時点では契約の効力が発生していないので、そもそも解除という概念は発生しません。
しかしながら、契約効果が発生していない停止条件付き売買でも手付金の授受が行われており、少し不思議な感じはします。
売買当事者からすると、実際には手付金の授受が行われているため、停止条件付き売買でも、条件成就の前に、売主又は買主の都合により手付金によって契約の解除をできると便利です。
結論としては、売買契約と手付契約は本来別の契約であるため、契約が停止条件付き売買であっても、売買契約の効力の発生とは関係なく、手付解除により売買契約を解消させることができると解されています。
解除とは、契約の効力が生じているものに対して行いますが、未だ効力が生じていない停止条件付き契約は、手付金によって「解除」ではなく「消滅」がなされます。
実務上は停止条件付き契約でも、手付金の授受は問題ありませんし、条件が成就する前でも手付金による「消滅」はできるということです。
ただし、手付解除できるのは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでというのが条件となっています。
履行の着手とは、「債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち、客観的に外部から認識しうるような形で履行行為の一部をなし、または履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合」を指します。
手受け金で契約を消滅させる場合も、同様の考えが用いられており、当事者の一方が契約の履行に着手していれば、手付金による消滅はできないと解されています。
尚、停止条件付き売買では、条件不成就のときの手付金の取扱について、明記しておいた方が安全です。
具体的には以下のような条文となります。
【条件不成就のときの手付金の取扱】
停止条件不成就が確定した場合、売主は、受領済みの金員を無利息で遅滞なく買主に返還しなければならない。
手付金のトラブルが発生しないように、停止条件不成就の場合の扱いを忘れずに明記しておきましょう。
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4-2.仲介手数料
不動産会社が仲介に入っている場合、仲介手数料は売買契約時に50%、引渡時に50%を支払うことが通常です。
不動産会社が仲介手数料をもらうには、以下の3つの要件が必要となっています。
これは「媒介報酬請求権の3要件」と呼ばれています。
【媒介報酬請求権の3要件】
1.業者と依頼者との間で媒介契約が成立していること
2.その契約に基づき業者が行う媒介行為が存在すること
3.その媒介行為により売買契約等が有効に成立すること
ここで、停止条件付き売買の場合には、不動産会社に媒介報酬の請求権が発生しているのかが問題となります。
標準媒介契約約款では、停止条件付き売買では、停止条件が成就した場合にのみ報酬を請求することができるとされています。
つまり、停止条件付き売買では、売買契約時に仲介手数料の請求権は発生せず、停止条件が成就した後に請求権が発生するということです。
しかも停止条件不成就となった場合には、仲介手数料を請求することができません。
そのため、停止条件付き売買は不動産会社にとって仲介手数料の請求条件が厳しいです。
例えば太陽光発電用地の売買では、農地転用許可等を伴うことにより停止条件付き売買が多いため、不動産会社の協力が得にくいことがあります。
仲介手数料がいつ入ってくるかも分からないため、停止条件付き売買を嫌がる不動産会社は多いということは知っておきましょう。
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5.まとめ
以上、停止条件に付いて解説してきました。
停止条件とは、停止条件が成就した時からその効力を生ずる条件です。
主に農地転用などの行政許可がないと契約を有効にすることができない取引で利用されます。
実質的な効果は、解除条件とほとんど変わりません。
停止条件や解除条件を利用する際は、条件不成就のときの取扱や、手付金等の既に受領している金員の扱い、損害賠償や違約金請求の可否等の取扱について明確にして契約を締結するようにしてください。
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