「手付金 返金」と検索している人は多いようです。
不動産の売買では、契約時に手付金を支払います。
手付金は、解除事由によって、戻ってくる場合と戻ってこない場合があります。
解除事由に対する手付金の返金ルールは、以下の通りです。
手付金はかなり大きな金額なので、万が一解除となった場合、どのようなケースで戻ってくるのか知っておくと安心です。
そこでこの記事では、不動産売買における「手付金」について解説します。
この記事を読むことで、手付金とはどのようなものなのか、また相場や現金払いの原則、返金ルールについて知ることができます。
ぜひ最後までご覧ください。
この記事の筆者:竹内英二 (不動産鑑定事務所:株式会社グロープロフィット代表取締役) 保有資格:不動産鑑定士・宅地建物取引士・中小企業診断士・不動産コンサルティングマスター・相続対策専門士・賃貸不動産経営管理士・不動産キャリアパーソン |
目次
1.手付金とは
手付金とは、売買契約の締結に際して、買主が売主に対して交付する金銭です。
手付金には、以下の3つの性質があります。
- 証約手付:契約の成立を証拠立てる性質
- 解約手付:契約を解除できる性質
- 違約手付:損害賠償とは別に違約罰として没収できる性質
不動産の売買は、「売買契約」と「引渡」を、通常1ヶ月程度離して行います。
買主は売買契約締結時に手付金を支払い、引渡に残金を支払うのが一般的です。
手付金は、売買契約時に支払うことで、証約手付として契約成立を証拠立てる効力が生じます。
また、解約手付として、売買契約から引渡しまでの間に手付金によって契約解除することも可能です。
さらに、違約手付として、引渡までに契約違反があれば違約金にもなります。
手付金は、引渡まで順調に進めば、そのまま売買代金の一部になりますので、引渡時に支払う金銭は手付金を除いた「残金」ということです。
そのため、売買契約が順調に行く限り、手付金は戻ってはこず、売買代金に充当されます。
一方で、売買契約から引渡しまでの間に契約解除があれば、解除事由によっては戻ってきたり、戻ってこなかったりするのです。
尚、手付金と類似するものに申込証拠金といったものがあります。
申込証拠金とは、契約成立以前に申込の順位を確保したり、真摯な申込意思の存在を確認したりするための不動産会社に対して支払う金銭です。
つまり、単なる「冷やかし」の買主ではないことを証明する金銭になります。
申込証拠金は、数万円から10万円程度が一般的です。
申込証拠金には、明確な法的位置づけはありませんが、手付金とは性質が異なります。
申込証拠金は契約が成立すれば売買代金の一部として充当され、契約が成立しなかった場合には、そのまま買主に返還されます。
2.手付金の相場
手付金の相場は、売買代金の10%程度が一般的です。
通常であれば10%程度で、高い場合には20%というのもあります。
買主からすると、手付金は結構高いと感じますが、実はわざと高くしているという側面もあります。
不動産の売買では、売買契約から引渡までが1ヶ月もあるため、契約の拘束力を高めることが必要です。
仮に手付金を小額なものとしてしまうと、借主が簡単に契約解除できてしまうため、売買契約の拘束力が弱まってしまいます。
手付金には、契約を証拠立てる証約手付としての機能もあることから、簡単に解約されないように高額な手付金が設定されているのです。
売主が個人の場合には、手付金の金額に規制はないため、いくらであっても問題はありません。
一方で、売主が不動産会社(宅地建物取引業者)の場合には、手付金は売買代金の2割以内にしなければならないというルールがあります。
よって、売主が不動産会社であるのにもかかわらず、手付金が20%を超えるような場合は、違法です。
また、売主が不動産会社の場合には、以下の場合はあらかじめ金融機関等による手付金の保全措置を取らないと手付金を受領できないこととなっています。
- 未完成物件の場合:売買代金の5%または1,000万円を超える場合
- 完成物件の場合:売買代金の10%または1,000万円を超える場合
手付金は、売主が不動産会社の方がしっかりと手付金の保全措置が取られるため、安心です。
売主が個人の場合、特に手付金の保全措置は取られないため、リスクはあります。
個人が売主の場合には、売主が手付金を使い込んでしまい、返金されるはずの手付金が戻ってこないという例もあるので、ご注意ください。
3.手付解除とは
売買契約から引渡しまでの間に、売主や買主は自らの一方的な都合で契約を解除することが可能です。
これを「手付解除」と呼びます。
手付解除では、買主は手付金を放棄し、売主は手付金を倍返しすることで契約の解除が可能です。
売主だけ倍返しというのは一見すると不公平な気がしますが、売主は既に手付金を買主から受領しているため、預かっている手付金に加え、自らも手付金と同じ額を支払えば「倍返し」となります。
つまり、売主も買主も、手付金の額を支払えば、契約を解除できるということです。
2020年4月から民法が改正されますが、新民法では手付解除の扱いが以下のように明確になります。
(手付)
新民法第557条1項
買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
前段は、買主は放棄、売主は倍返しすれば解除できるという内容です。
後段は、手付解除ができるのは「履行の着手」までということを定めています。
「履行の着手」とは、「債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち、客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし、または履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合」を指します。
具体的には、以下のような内容が履行の着手に該当します。
(売主)
- 所有権移転登記手続き
- 分筆登記手続き(数区画の分譲の場合を除く)
(買主)
- 中間金の支払い
- 残代金の支払い
実際のところ、「履行の着手」は非常にあいまいであるため、裁判になることも多いです。
そこで、通常の売買契約では、手付解除ができる「解除期限」も定め、取引の安定を図っています。
単純に、解除期限を過ぎれば、手付解除はできないということです。
尚、解除期限を定めても、解除期限以前に明確な「履行の着手」があった場合には、民法の原則に則り、それ以降の解除はできないことになります
4.解除と返金ルール
この章では解除と返金のルールについて解説します。
尚、この章では契約時に支払う半額分の仲介手数料の返金についても触れます。
仲介手数料については、以下の3つの場合には返金しなければいけないことになっています。
- 不動産会社の責任により売買契約が解除になった場合
- 解除条件付きの売買契約で、解除条件が成就して契約が解除になった場合
- ローン特約付きの売買契約でローン不成立により契約が解除になった場合
4-1.手付解除の場合
買主都合で手付解除をする場合には、手付放棄ですので、手付金は当然に戻ってきません。
一方で、売主都合で手付解除がなされる場合には、倍返しですので、手付金は当然戻ってきますし、さらに売主からも手付金と同額がもらえます。
買主から手付解除をする場合には、配達証明付内容証明郵便にて手付解除をする旨の意思表示をすることが望ましいです。
売主から手付解除する場合には、解除の意思表示に加え、手付金の倍額を振り込むか、持参するか等の現実の提供が必要となります。
尚、手付解除では、売買契約時に既に払った仲介手数料についても返金されません。
手付解除は、買主や売主の一方的な都合であって、不動産会社には非がないからです。
金額からすると、手付解除はかなりの痛手となります。
逆に言えば、高額な手付金が解除の心理的なハードルの役割を果たしており、契約は簡単には解除できないようになっているのです。
4-2.ローン特約による解除の場合
ローン特約とは、買主が融資を利用して不動産を購入する場合において、買主の融資申込手続義務と、融資が承認されなかったときの契約の解除を定めた条項です。
ローン特約による解除では、手付金は返金されます。
また、既に払った仲介手数料も返金されます。
つまり、ローン特約による解除は、ノーペナルティで解除できるということです。
ローン特約は、手付解除とは異なり、無傷で解除ができるため、買主の中にはローン特約を悪用する人もいます。
売買契約をした後、気が変わり、解除したい場合にわざと融資審査を通さずに解除に持ち込むといったケースです。
このような買主の行為を「ローンこわし」と呼びます。
安易にローンこわしがなされると、契約の拘束力が非常に弱まってしまうため、ローン特約は契約書の中で買主に行動ががっちり規制されることが通常です。
例えば、ローン特約では、買主は銀行に出した提出書類も売主にもコピーを提出するようになっているケースが多いです。
なんで銀行に出す書類をわざわざ売主にも出さなければいけないのかという不満を持つ人もいますが、それはローンこわしを防ぐことが理由です。
また、期日までに銀行に融資審査を行わなかった場合や、虚偽申請をした場合には、契約解除ができないようにもなっています。
契約解除ができないということは、そのまま購入する必要があるということです。
通常、ローン特約を悪用することはできないようになっていますので、住宅ローンを利用する人は、粛々とローンの申請手続きをするようにしてください。
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4-3.危険負担による解除の場合
危険負担とは、売買契約締結後、引渡前に目的物が火災・地震・台風などにより損害を受け、両当事者の責任がない場合、その損害に対して売主、買主どちらがその損害を負担するかを定めた条項です。
不動産の売買では、危険負担は売主が負担します。
引渡前に建物等が滅失した場合には、契約は解除されることになり、買主は不動産を購入しなくても良いことになります。
危険負担の場合には、手付金については返還されます。
手付金の返還条項は、売買契約書の中で定められていることが通常です。
危険負担も新民法では以下のように定められています。
(債務者の危険負担等)
新民法第536条
1.当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
条文の中で「債権者」は「買主」のことです。
「債務を履行することができなくなったとき」とは、「物の引渡をできなくなったとき」のことを指します。
「反対給付の履行を拒む」とは、「売買代金の支払いを拒む」ということです。
つまり、引渡し前に地震等で建物が滅失して契約が解除になった場合には、買主は不動産を購入しなくても良いことになります。
一方で、仲介手数料については、不動産会社に何ら責任がないため、返還されないという解釈が一般的です。
標準媒介契約約款には、危険負担の場合の返金については特に触れられておらず、危険負担によって解除されても不動産会社の媒介報酬請求権には影響はしないものと推察されます。
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4-4.契約違反による解除の場合
買主が契約違反した場合には、手付金は違約金として没収されることが通常です。
一般的な売買契約書では、契約違反時の解除の取扱は以下のように定められています。
(契約違反による解除)
第○○条 売主又は買主がこの契約に定める債務を履行しないとき、その相手方は、自己の債務の履行を提供し、かつ、相当の期間を定めて催告したうえ、この契約を解除することができる。
2 前項の契約解除に伴う損害賠償は、標記の違約金(H)によるものとする。
3 違約金の支払いは、次のとおり、遅滞なくこれを行う。
①売主の債務不履行により買主が解除したときは、売主は、受領済の金員に違約金を付加して買主に支払う。
②買主の債務不履行により売主が解除したときは、売主は、受領済の金員から違約金を控除した残額をすみやかに無利息で買主に返還する。この場合において、違約金の額が支払済の金員を上回るときは、買主は、売主にその差額を支払うものとする。
4 買主が本物件の所有権移転登記を受け、又は本物件の引渡しを受けているときは、前項の支払いを受けるのと引換えに、その登記の抹消登記手続き、又は本物件の返還をしなければならない。
まず、売買契約書では、通常、違約金の定めを行います。
違約金は、手付金と同額とすることも多いです。
売主の債務不履行によって買主が契約解除した場合には、売主が、受領済の金員に違約金を付加して買主に支払います。
つまり、手付金は返ってきますし、違約金ももらえることになります。
一方で、買主の債務不履行によって売主が契約解除した場合には、買主が、違約金を支払います。
違約金が手付金よりも小さい場合には、売主が手付金から違約金を控除した残額を買主に戻します。
違約金が手付金よりも大きい場合には、買主が違約金と手付金の差額を売主に支払うことになります。
また、仲介手数料については、売主と買主の契約違反による場合には、不動産会社に何ら責任がないため、返還されません。
ただし、不動産会社の責任によって契約が解除となった場合には、仲介手数料は返還されます。
4-5.停止条件による契約不成立の場合
停止条件とは、条件が成就するまでの間、法律効果の発生を停止しておく条件のことです。
法律効果とは例えば、売買契約の成立など、法律行為の効力が発生するものを指します。
停止条件は、農地を宅地として売買するときなどに利用されます。
農地を宅地として売買する際は、農地法の許可が必要です。
農地の売買では、「農地法の許可が取れたら」という条件が停止条件となります。
停止条件では、停止条件が成就したときに、はじめて売買契約の効果が生じます。
そのため、停止条件付き売買では、契約時点では契約の効力が発生していないので、そもそも解除という概念は発生しません。
しかしながら、停止条件付き売買でも売買契約時に手付金の授受は良く行われています。
売買契約と手付契約は本来別の契約であるため、契約が停止条件付き売買であっても、手付金の授受は特に問題がないと解されています。
停止条件では、条件不成就となると、契約が解除されます。
一般的に、停止条件付き売買では、条件不成就のときは、手付金は返還すると定めをしておくことが通常です。
契約書の定めは、具体的には以下のような条文となります。
【条件不成就のときの手付金の取扱】
停止条件不成就が確定した場合、売主は、受領済みの金員を無利息で遅滞なく買主に返還しなければならない。
そのため、停止条件付き売買で条件不成就により契約が解除された場合には、手付金は返還されるということです。
尚、仲介手数料について、停止条件付き売買では、売買契約時に仲介手数料の請求権は発生せず、停止条件が成就した後に請求権が発生することになっています。
そのため、不動産会社は契約締結時に仲介手数料は要求することはできませんが、仮に間違って受領してしまったとしても、仲介手数料は返還されることになります。
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5.現金払いの原則
買主の人は少々、困惑すると思いますが、手付金は今のところ現金払いが主流です。
現金払いとは、封筒に現金を詰めて、その場で手渡しすることを指します。
正直言うと、現金払いはかなり嫌がる買主が多いです。
4,000万円の物件を購入した場合、10%だとすると手付金は400万円にもなってしまいます。
400万円を持参する機会というのは、人生でそう多くはないはずです。
手付金はATMで一度に引き落とせる金額を超えていることも多いですし、用意するとなると、何日間に分けて引き落として用意しなければなりません。
そのため、買主は購入が決まった時点で、手付金の現金を用意するようにしてください。
手付金は、契約を証拠立てるものですので、前払いも後払いもできません。
契約と同時に支払わなければいけないため、現金持参が原則となります。
手付金は、非常に高額ですので、事前に振り込むのは相当なリスクがあります。
理由としては、詐欺の売買契約だった場合、手付金が持ち逃げされる可能性があるからです。
手付金は、買主が売買契約の内容をしっかりと確認し、間違いがないことをその場で確認した上で支払うことが重要です。
また、手付金は要物契約と呼ばれており、実際に手付金がないと手付契約の効力が生じません。
つまり、後払いになると手付金ではなくなりますので、後日払いもNGです。
さらに、不動産会社が売主の場合、手付金を後払いにしてしまうと、強引に契約の締結を誘導したとみなされる信用供与となってしまうため、後払いはできないことになります。
よって、手付金は売買契約と同時に支払わなければならず、その一番確実な方法が現金持参であることから、未だに多くのケースで現金持参が採用されているのです。
ただし、手付金の現金持参の習慣も、恐らくここ5~6年の間に変わってくると思います。
近年は、携帯電話があれば振込も着金確認もできる銀行が増えてきました。
売買契約時に、買主がその場で携帯電話を使って振り込み、売主もその場で携帯電話を使って着金確認ができれば、持参ではなくても問題ありません。
尚、今でも手付金は振込を使うケースもあります。
振込を使う場合は、例えば売買契約には売主も買主もご主人が立会い、携帯電話で連絡して買主の奥様が振込を行って、売主の奥様が記帳して着金確認したらご主人に電話で連絡する方法です。
売買契約を平日の午前中の早い時間に設定し、売主も買主も、送金と着金の確認が取れる連携体制が取れれば、振り込みもできます。
どうしても現金持参が嫌な場合には、あらかじめ不動産会社に相談し、振込による対応ができないか確認するようにしてください。
要望が増えれば、この古い習慣もそのうち変わっていくでしょう。
5.まとめ
以上、手付金について解説してきました。
手付金は、簡単に契約を解除できないようにするため、金額が大きく設定されています。
返金ルールは解除のパターンによって異なります。
売買契約を締結すると、大きく拘束されますので、不動産の契約は慎重に行うようにしてください。
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