取引態様とは?売主・専任・一般・媒介・代理からわかることと注意点を解説

2019/09/22

中古住宅を購入する際は、物件広告の取引態様をチェックすることがポイントです。
取引態様とは、広告を出している不動産会社の立場を表すものですが、取引態様からは多くのことを読み取ることができます。

値引き交渉のしやすさや、仲介手数料が無料になる等の情報も「取引態様」を確認することで分かるようになります。

そこでこの記事では、これから不動産を購入する人向けに「取引態様とは何か」について解説してきます。

この記事を読むことで、取引態様とは何か、わかることや注意すべき点についても知ることができます。
ぜひ最後までご覧ください。

この記事の筆者:竹内英二 (不動産鑑定事務所:株式会社グロープロフィット代表取締役)
保有資格:不動産鑑定士・宅地建物取引士・中小企業診断士・不動産コンサルティングマスター・相続対策専門士・賃貸不動産経営管理士・不動産キャリアパーソン

 

1.取引態様とは

取引態様とは、物件広告を出している不動産会社の立場を表したものです。

不動産会社は、宅地または建物の売買その他の業務に関して広告をするときは、取引態様の別を明示しなければいけないという義務があります。

取引態様の別とは、広告主である不動産会社が売買・交換契約の当事者となるのか、代理人として、または媒介して売買・交換・賃借を成立させるのかの別をいいます。

不動産の広告は、「不動産の表示に関する公正競争規約(以下、「規約」と略)」によって記載しなければならない項目が定められています。

取引態様は、規約の中で、広告に必ず表示しなければならないと定められている項目の1つです。

売り物件の広告で表示される取引態様には、「売主」、「媒介」、「代理」の3種類があります。

不動産の広告には、チラシのような紙媒体のものや、SUUMOやアットホーム等の不動産ポータルサイトに載せる電子媒体の物があります。
紙媒体や電子媒体であっても、取引態様は必ず表示されています。

紙媒体のチラシの場合、取引態様は端っこに小さく掲載されていることが多いです。
例えば、以下のように右下に「売主」と書かれているのが取引態様の表示になります。

電子媒体の場合、広告の下の方に取引態様は掲載されていることが多いです。
例えば、SUUMOでは取引態様は以下のように掲載されています。

取引態様は、不動産広告であれば必ず表示されているものです。
物件広告を見る際は、必ず取引態様もチェックするようにしましょう。

2.媒介契約の種類

取引態様で最も多いのは「媒介(もしくは仲介)」という表示です。
この章では、不動産仲介の種類について解説します。

不動産会社に仲介を依頼する契約を媒介契約と呼びます。
媒介契約には、「一般媒介契約」、「専任媒介契約」、「専属専任媒介契約」の3種類があります。

一般媒介契約とは、売主が複数の不動産会社に重ねて媒介を依頼することができる媒介契約です。

専任媒介契約と専属専任媒介契約は、売主が1社の不動産会社にしか仲介を依頼できない契約になります。

専任媒介契約と専属専任媒介契約の違いは、自己発見取引をできるかどうかです。
自己発見取引とは、売主が自分で買主を探してくることを指します。

自己発見取引はできるのが専任媒介契約で、自己発見取引すら禁止されているのが専属専任媒介契約です。

一般媒介と専任媒介等の違いを概念図で比較すると以下の通りです。

売主が一般媒介を選択していれば、1つの物件を複数の不動産会社が売却活動をしている可能性があります。

例えば、SUUMO等で同じ物件が違う会社の広告で複数掲載されているようなケースでは、一般媒介ということになります。

一方で、売主が専任媒介契約または専属専任媒介契約を選択していれば、その物件を取り扱っている不動産会社は1社のみであり、広告も1つだけということです。

3.媒介

取引態様で最も多い表示は、「媒介」または「仲介」です。
媒介も仲介も同じことですので、ここでは媒介に統一します。

不動産会社が仲介の立場の場合、取引態様は「媒介」または「仲介」とだけ表示すれば良いことになっています。
尚、「一般」や「専任」等、媒介契約の種類まで表示しても構わないとされています。

この章では、取引態様が「一般」、「専任」、「媒介」と表示されているときのわかることと注意点について解説します。

3-1.一般となっている場合

取引態様には、「一般」と記載されていることがあります。

3-1-1.一般でわかること

取引態様が一般と明記されているときは、売主が一般媒介を利用して売却していることを意味します。

取引態様が「一般」となっている場合、比較的良い物件である可能性が高いことがわかります。

一般媒介は、複数の不動産会社が同時に売却活動を行うため、売主にとっては早く売れるという点がメリットです。

売主が支払う仲介手数料は、成功報酬であるため、一般媒介で複数の不動産会社に仲介を依頼しても、支払う仲介手数料は売却を決めてくれた1社だけとなります。

仲介手数料を得るのは早い者勝ちとなるため、不動産会社間に競争原理が働くことから良い条件で早く売れるようになるのです。

ただし、不動産会社からすると、一般媒介では仲介手数料をもらえる保証がなくなることから、やる気がなくなる契約となります。

そのため、なかなか売れない物件や、金額の低い物件など、売主が一般媒介を選択すると不動産会社があからさまにやる気をなくすことが多く、条件の悪い物件では売主が選択しにくいという事情があります。

一方で、条件の良い物件であれば、不動産会社にとっては売却が簡単ですし、仲介が決まったときの手数料収入も大きいです。

よって、条件の良い物件では、売主が一般媒介を選択しても不動産会社は文句を言わず売却活動をします。

不動産の売却では、良い物件ほど一般媒介を利用するのがセオリーとなっています。
そのため、「この物件良いな」と思う物件に限って、取引態様が一般となっていることが多いのです。

3-1-2.一般の注意点

買主にとっては、取引態様が一般の物件は値引き交渉しにくいという点が注意点です。
一般媒介では、複数の不動会社が同時に売却活動をしていますので、売主とじっくり交渉しようと思っても、他社からの横やりが入り、買いにくいという側面があります。

例えば、4,000万円の物件を、A社を通じて購入する場合を考えます。
値引きしたいので、3,900万円で交渉しようと思ったとします。

ところが、B社が4,000万円の買主を連れてきてしまった場合、B社の買主に物件を横取りされてしまうのです。

また、値引きをしなくても、買おうかどうかの決断に迷っている間に、他社の買主に取られてしまうことがあります。

このように、一般媒介の物件では、他社からの横取りがあるため、「値引き交渉しにくい」、「じっくり検討できない」といったデメリットがあります。

良い物件で「一般」となっている場合には、満額で即決をしなければ買えないケースがあります。
焦りは禁物ですが、スピーディーな決断が求められるということは知っておきましょう。

3-2.専任となっている場合

専任媒介契約や専属専任媒介契約では、取引態様には単に「専任」と書かれているケースがあります。
物件によっては、「専任媒介」や「専属専任」と記載されていることもあります。

3-2-1.専任でわかること

取引態様が専任と明記されているときは、売主が専任媒介または専属専任媒介を利用して売却していることを意味します。

取引態様が「専任」となっている場合、値引きしやすい物件であることがわかります。

専任媒介または専属専任媒介であれば、他社に横取りされる心配はありません。
そのため、買主にとってはじっくりと物件を検討でき、場合によっては値引きも可能です。

専任媒介または専属専任媒介を契約している不動産会社は、自分で買主を決めると両手仲介ができるチャンスです。
両手仲介とは、売主からも買主からも仲介手数料を取る仲介のことを指します。

それに対して、売主だけ、もしくは買主だけからしか仲介手数料が取れない場合を片手仲介(もしくは「わかれ」)と呼んでいます。

A社が売主から専任媒介を契約していたとしても、B社が買主を連れてきた場合は、片手仲介となります。

両手仲介になれば、手数料収入は片手仲介の2倍になりますので、不動産会社にとって両手仲介と片手仲介は大きな違いです。

専任媒介の不動産会社は、売主から仲介手数料を得ることは確実であるため、あとは自社で買主を見つければ両手仲介が成立します。
そこで、自社で見つけてきた買主でなんとか売買契約を成立させようとしてくれるのです。

取引態様が「専任」となっている物件では、買主が値引きを要求すれば、不動産会社は売主を説得して買主の要求を通そうとしてくれます。
また、他社に横取りされることもないことから、じっくり検討することも可能です。

取引態様が「専任」と表示されている物件は、買主にとって値引きもしやすく、買いやすい物件であると考えて良いでしょう。

3-2-2.専任の注意点

取引態様が「専任」であっても、買主同士の競争はゼロではありません
A社が専任で扱っている物件を、甲さんと乙さんで競合することはあり得ます。

良い条件の物件であれば、その物件に2~3人の購入希望者が現れることは良くあります。
2~3人の購入希望者が同時に手を挙げれば、満額の条件を早く提示した人が購入できることになるのです。

結局のところ、良い物件の場合には、専任でも一般でも値引き交渉によって安く購入することは難しくなります。

取引態様が「専任」の場合でも、買主は自分だけというわけではないと意識することが必要です。

ただし、一般よりも専任の方が、買主間の競争の激しさは格段に少なくなります。

専任であれば、買主の情報は全て1社の不動産会社が把握していますので、どうしても物件を購入したい場合には、いくらを提示すれば確実に購入できるか不動産会社に教えてもらうことも可能です。

競合の可能性はゼロではないものの、圧倒的に購入しやすいのは「専任」ということになります。

3-3.媒介となっている場合

取引態様には単に「媒介(もしくは仲介)」とだけ書かれているケースがあります。

3-3-1.媒介でわかること

取引態様が「媒介」とだけ書かれている場合には、その物件は仲介物件であるということだけがわかります。
残念ながら、一般なのか専任なのかはわかりません。

ただし、SUUMOなどは、同じ物件が複数の不動産会社で広告されていることがあります。
複数の不動産会社によって広告されている場合には、媒介と書かれていても一般媒介ということです。

それに対して、同じ物件の広告が他に見つからない場合には、媒介と書かれていても専任媒介の可能性が高いです。

媒介としか書かれていない場合には、同じ物件の広告が他にあるかどうかによって、一般なのか専任なのかを推測することになります。

3-3-2.媒介の注意点

「媒介」や「一般」、「専任」では、基本的に売主が個人になるという点です。
個人が売主の場合には、住宅ローン控除の所得税の最大控除額が少なくなってしまうという点に注意が必要です。

住宅ローン控除とは、令和3年12月末日までに自分が住むための住宅の取得等を行うため返済期間10年以上の住宅ローンを利用した場合、居住年から10年間にわたり年末の借入残高に応じて所得税額などから一定額の控除を受けられる制度です。

個人から住宅を購入した場合、所得税の最大控除額が20万円となってしまいますので、ご注意ください。

所得税の控除対象借入限度額は売主が誰かによって以下のように定められています。

住宅ローン控除額は以下の式で計算されます。

住宅ローン控除額 = 住宅借入金等の年末残高 × 控除率

売主が個人の場合、控除対象借入限度額が2,000万円ですので、仮に年末借入金残高が2,000万円超の場合には、ローン控除額の上限は20万円となります。

ローン控除額 = 年末借入金残高 × 控除率
       = 2,000万円 × 1%
       = 20万円

一方で、売主が不動産会社の場合、控除対象借入限度額が4,000万円ですので、仮に年末借入金残高が4,000万円超の場合には、ローン控除額の上限は40万円となります。

ローン控除額 = 年末借入金残高 × 控除率
       = 4,000万円 × 1%
       = 40万円

中古住宅の住宅ローン控除額は、誰が売主なのかで異なりますので、住宅ローン控除の要件を十分に確認した上で購入するようにしましょう。

【関連記事】

住宅ローン控除!中古の条件マンション25年・戸建20年や限度額を解説

4.売主

この章では取引態様の「売主」について解説します。

4-1.売主からわかること

取引態様が「売主」の場合には、広告を出している不動産会社が売主であるということを意味しています。

取引態様が売主の物件は、非常にメリットが多く、ぜひ検討したいところです。
不動産会社が売主の場合には、以下の6つのメリットがあります。

  • 仲介手数料が無料となる
  • 買い替え特約の利用可能性がある
  • すまい給付金がもらえる可能性がある
  • 瑕疵担保責任が全部免責されない
  • 手付金が保全される
  • 住宅ローン控除額が大きくなる

1つ目としては、不動産会社から直接購入することになるため、仲介手数料は無料となります。

2つ目としては、買い替え特約を利用できる可能性があるという点です。
買い替え特約とは、住み替えをする買主が、自分の家が期限までに売却できなかった場合に、購入の売買契約を解除できるという特約です。

3つ目としては、すまい給付金がもらえる可能性があるという点です。
すまい給付金は、住宅を購入する際、1回だけ国からもらえるお金になります。

すまい給付金は最大50万円までですが、売主が不動産会社であることが条件となっています。

4つ目は、売主の瑕疵(かし)担保責任が全部免責されないという点です。
瑕疵担保責任とは、引渡後、物件に瑕疵が発見された場合、売主が負う損害売却や契約解除の責任のことです。

売主が宅地建物取引業者の場合、「引渡から2年以上」とする特約を除いて、民法の規定より買主に不利な特約をすることができません。

個人が売主の場合には瑕疵担保責任を全部免責されてしまうことがありますが、売主が不動産会社なら、通常、2年間の瑕疵担保責任期間がありますので安心して購入することができます。

5つ目は、手付金が保全されるという点です。
売主が不動産会社の場合には、手付金が一定額となるとあらかじめ金融機関等による保全措置を取らないと手付金を受領できないこととなっています。

手付金の返金を求めるようなことが生じた場合、売主が不動産会社なら使い込んで返金できないというようなことはないため、安心して購入することができます。

6つ目は、住宅ローン控除額が大きくなるという点です。
住宅ローン控除額は、個人から購入すると最大で20万円ですが、不動産会社から購入すると最大で40万円まで控除することが可能です。

以上のように、不動産会社が売主の場合には、制度上、様々なメリットがあります。
取引態様が売主の物件のメリットとデメリットに関しては、以下の記事で詳しく記載していますので、ぜひご参照ください。

【関連記事】

取引態様の売主とは?デメリットや値引き・手数料の扱いを解説

4-2.売主の注意点

取引態様が売主の物件の注意点は、あえて言うとリフォーム物件が安普請(やすぶしん)の場合かあるという点です。

取引態様が売主の物件は、不動産会社が買取をして、リフォームを行った後に転売しているケースが多いです。

リフォーム転売では、利益を確保するために、リフォーム費用をできるだけ安く抑えます。
そのため、見た目は良いのですが、安価な素材でリフォームをされていることが多く、壊れやすかったり、使いにくかったりするものも多いです。

全てのリフォーム物件が安価なものではありませんが、特に低額物件でフルリフォームされているような物件では、安普請のリフォーム物件もあるということは知っておいた方が良いでしょう。

5.代理からわかること

取引態様には、「代理」というのもあります。
中古住宅では、取引態様が代理となっていることは滅多にありません。
そのため、この章では代理について簡単にご紹介します。

5-1.代理からわかること

取引態様が「代理」と書かれている場合には、その物件は広告をしている不動産会社が売主の代理人として売却しているということになります。

宅地建物取引業者は、売主の代理人として不動産を売却することが法律で認められています。

取引態様が「代理」のケースが、新築マンションの販売が最も典型的な例です。
例えば、三井不動産株式会社は三井不動産レジデンシャル株式会社という関連会社を代理人としてマンションを売却しています。

このようなケースでは、取引態様が「代理」となっており、三井不動産レジデンシャル株式会社が代理人として三井不動産株式会社のマンションを売却していることになるのです。

土地を仕入れて建物建築を発注する主体が本社であっても、実際の販売は子会社が行うのは、マンションディベロッパーに良く見られるケースです。

代理人は、本人に成り代わって売買契約などの法律行為ができる人のことを指します。
買主からすると、代理人イコール売主と考えてもらって差し支えありません。

5-2.代理の注意点

新築マンションや、新築分譲戸建てであれば、関連会社が代理人として販売することは良く行われているため、特に問題はないと考えてもらって大丈夫です。

しかしながら、中古物件では取引態様が「代理」のケースはほとんどないため、仮に「代理」とかいてあるケースは非常に注意が必要です。

代理の売買では、代理人が無権代理人で詐欺に巻き込まれる可能性もあります。
無権代理とは、代理権が与えられていないのに代理人と称して契約を行う取引のことです。

代理人との取引の場合は、本当にその人に代理権があるのかをしっかりと確認する必要があります。
基本的には本人に本当に売却の意思があるのか直接確認することが重要です。

中古物件で不動産会社が個人売主の代理となっているようなケースでは、怪しい可能性もありますので、基本的には購入を見送る方が無難といえます。

仮にどうしても購入したいのであれば、他の不動産会社に仲介に入ってもらい、しっかりと調べてもらった上で購入するのが安全です。

仲介手数料は発生しますが、不動産会社にしっかりと調べてもらうことに十分な価値があります。

中古物件で代理人から購入する場合には、詐欺に巻き込まれないように注意した上で購入するようにしてください。

6.まとめ

以上、取引態様について解説してきました。

取引態様とは、広告を出している不動産会社の立場を表したものになります。
取引態様は、媒介の場合、一般よりも専任と記載されている物件の方が買いやすいです。
売主となっていれば、仲介手数料が無料になる等の様々なメリットがあります。

取引態様を確認するだけでも、値引き交渉のしやすさや、仲介手数料が無料になる等がわかります。
中古物件を購入する際は、必ず「取引態様」はチェックするようにしましょう。

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