マンションや戸建ての住み替えでは、「買い替え特約(買換え特約)」が利用されることがあります。
買い替え特約とは、購入者が買い替えを行う場合、購入者の持っている物件が売却できない場合は契約を解除できるといった特約です。
買い替えを行う買主にとっては、売却した後に購入ができるため、大きなメリットがあります。
一方で、買い替え特約があることで、売主の立場は不安定となり、大きなデメリットが生じます。
そのため、買い替え特約は、売主も買主もデメリットを把握した上で締結すべきです。
そこで、この記事では「買い替え特約」について解説します。
この記事を読むことで買い替え特約の特徴や文例やデメリットについて知ることができます。
ぜひ最後までご覧ください。
この記事の筆者:竹内英二 (不動産鑑定事務所:株式会社グロープロフィット代表取締役) 保有資格:不動産鑑定士・宅地建物取引士・中小企業診断士・不動産コンサルティングマスター・相続対策専門士・賃貸不動産経営管理士・不動産キャリアパーソン |
目次
1.買い替え特約とは
買い替え特約とは、住み替えをする買主が、自分の家が期限までに売却できなかった場合に、購入の売買契約を解除できるという特約です。
契約書上の表記には、「買換えに伴う特約」とされることが多く、「買換え」と漢字が使われます。
「買い替え特約」と検索している人が多いので、この記事では「買換え」を「買い替え」と表記して解説します。
買い替え特約を図式すると、下図の通りです。
まず、主体となるのが黒のAさん(買主)と赤のBさん(売主)の契約です。
AさんとBさんの売買契約を「本契約」とします。
この度、AさんはBさんの家を購入することになりましたが、Aさんは自分の家を売った後にBさんの家を購入したいという希望があります。
自分の家を売った後に購入すれば、二重ローンを避けることもできますし、売却で得た資金を購入に充てることも可能です。
もしAさんが自分の家を売れなかった場合、Bさんとの契約を解除できるようにしておけば、非常に都合が良くなります。
そこで、本契約の中に、「Aさんの家が売れなかったらBさんとの契約は解除します」という条件を加えます。
上図の緑で囲った売買が不成立となることが解除条件となり、条件が成就されると本契約を解除できるというのが「買い替え特約」です。
Aさんの売却は、本来は購入の本契約とは全く関係ないものですが、Bさんとの本契約にAさんの売却が条件に加わるというのが買い替え特約になります。
上図でいうと、緑のCさんとAさんの契約が解除条件に該当します。
AさんはBさんとの間では買主ですが、Cさんとの間では売主という立場です。
Aさんが期限まで自分の家を売却できれば問題ありませんが、期限まで売却できなかった場合、Bさんとの本契約は解除となります。
本契約が解除できれば、AさんばBさんの家を買う必要がなくなるため、お金の心配もする必要がありません。
Aさんは、本契約によってとりあえずBさんの家を抑えておくことができますし、Aさんの売却が上手く行かなければ無理に買う必要もないのです。
一方で、BさんにとってはCさんという第三者が現れない限り、売却できないことになります。
Bさんは、Aさんとの売買契約に拘束され続け、挙句の果てに売れなかったというリスクがあるのです。
買い替え特約は、Aさんのためにある特約といっても過言ではありません。
売主のBさんにはほとんどメリットがなく、基本的にAさんのために入れる特約となります。
2.買い替え特約の文言
この章では、買い替え特約の具体的な文言を紹介します。
買い替え特約は、前章で紹介した本契約に入れる文言です。
条文の中で買主はAさん、売主はBさんに該当します。
(買換え特約)
1.買主は、買主の別紙目録記載の手持ち物件の売却代金をもって本物件の購入代金を弁済するものとする。よって、令和〇年〇月〇日までに買主の手持ち物件が、金○○○○万円以上で売却できなかったとき、又はその売却代金が受領できなかったとき、買主は、令和〇年〇月〇日まではこの契約を解除することができる。
2.前項によって、この契約が解除された場合、売主は、受領済みの金員を無利息で遅滞なく買主に返還しなければならない。
3.本条による解除の場合は、第〇条(手付解除)および第〇条(契約違反による解除)の規定は適用されないものとする。
この条文では、「売却の期限」と「解除の期限」の2つを設けていることがポイントです。
手持ち物件が売却できなかったとき、即時解除ということにはならず、一応、解除期限までの熟慮期間を設けています。
仮にAさんの売却が上手く行かなかったとしても、Aさんが二重ローンを組むなどして、なんとかしてBさんの物件を購入するという判断もあり得るからです。
Aさんには「解除することができる」という選択肢を与えることで柔軟な対応ができるようになっています。
ただし、解除期限を設けると、その分、Bさんの「売却できないかもしれない」という不安定な時期が長期化します。
そのため、Bさんの立場を考慮すると、解除期限はできるだけ短くすることも必要です。
解除期限は必ずしも絶対設けなければいけないものではなく、買主と売主の双方の合意の上で、適切な時期を設定する必要があります。
また、買い替え特約では、契約が解除となった場合、一般的に手付金を返金することになっているケースが多いです。
つまり、買主はノーペナルティで解除することができます。
ただし、このノーペナルティ解除(無条件解除)が、売主の立場を著しく弱くしている原因です。
買い替え特約では、買主に無条件解除を認めるかどうかは、話し合いで決めることができます。
無条件解除を認めてしまうと、Aさんが自分の物件をいたずらに高く売り出し、誠実な売却活動をしない可能性も出てくるため、Aさんに緊張感を持たせるためにもペナルティは設けた方が良いという考えもあります。
解除時のペナルティは、売主と買主で十分に協議し、双方納得した形で設定するようにしましょう。
3.停止条件ではなく解除権留保型
少し細かい話になりますが、前章で紹介した文言は、停止条件ではなく解除権留保型と呼ばれる特約になります。
停止条件とは、条件が成就するまでの間、法律効果の発生を停止しておく条件のことです。
それに対して解除条件とは、条件の成就によって法律効果の効力が消滅する条件のことを指します。
例えば「試験に合格したら100万円あげる」というのが停止条件で、「試験に不合格となったら100万円はあげる話は止める」というのが解除条件です。
【停止条件】
【解除条件】
条件が成就すると契約が解除されるのが解除条件で、条件が成就すると契約の効果が生まれるのが停止条件となります
いずれも似たような効果をもたらしますが、買い替え特約は解除条件で締結されることが多いです。
買い替え特約では、「買主の物件が期限まで売れなかったら買主に解除の権利を与える」という契約ですので、停止条件ではなく解除条件になります。
解除条件は、さらに「解除条件型」と「解除権留保型」に分かれます。
解除条件型とは、「売却不成立の場合には、売買契約は当然に失効する」というタイプの契約です。
それに対して、解除権留保型とは、「売却不成立の場合には、買主は売買契約を解除することができる」というタイプの契約になります。
前章で紹介した文言は、「売却の期限」と「解除の期限」の2つを設けており、売却期限が過ぎたら当然に契約が執行されるものではありません。
買主は解除の期限まで解除するかどうかを熟慮することができるため、契約のタイプとしては「解除権留保型」になるのです。
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4.買い替え特約のデメリット
この章では買い替え特約のデメリットについて解説します。
4-1.売主の立場が不安定になる
買い替え特約を付けてしまうと、売主の立場が不安定になるというのが最大のデメリットです。
下図でいうと、本契約の売主であるBさんの立場が不安定になります。
BさんもAさんと同様に買い替えを予定していることが良くあります。
Bさんは、「AさんとCさんの売買契約」が上手く締結されないと、自分の物件を売却することができません。
Bさんの物件が売れるかどうかは、第三者のCさんの登場次第であり、いつ売却できるのか分からない状態となります。
仮にBさんがDさんから物件を購入したいと思っても、売却しないと購入できない状況であれば、BさんはCさんが現れない限り、Dさんから購入もできないことになります。
つまり、Bさんは、買い替え特約でAさんに縛られてしまうことで、売却も購入もどちらもできなくなってしまうのです。
買い替え特約は、本契約の買主であるAさんが有利になる契約であって、本契約の売主であるBさんは不利になります。
ひょっとしたら、BさんはAさんと契約しなければ、他の買主が現れる可能性がありますが、解除期限までは他の買主に売却することができません。
Bさんは、単純にAさんに拘束されているだけなので、他の売却機会を逃しているというデメリットも生じているのです。
そのため、一般的に個人が売主の場合には、買い替え特約を応諾してくれる売主はあまりいません。
個人の売主は、自分自身も買い替えを予定している人が多く、買い替え特約に縛られてしまうと、自分の買い替えがスムーズに行かなくなるからです。
個人売主が買い替え特約を応諾するケースは、例えば1年以上売却活動をしても全く売れず、ようやく見つかった買主が買い替え特約を申し出てくるようなケースです。
例えば、Bさんが「この売主を逃してしまったら一生売れないかも…」思っていれば、Aさんからの買い替え特約の要求を応諾する可能性はあります。
買い替え特約は買主に有利な条件ですが、力関係が買主の方が強い取引では、買い替え特約が応諾されることもあるのです。
4-2.利用できるケースが限られる
買い替え特約は、利用できるケースが限られるというのがデメリットです。
個人が売主となる中古物件では、普通は売主が応諾してくれません。
買い替え特約が利用できるケースは、売主が不動産会社である場合が多いです。
不動産会社が売主の場合に以下の2つの理由により買い替え特約が応諾されやすくなっています。
・不動産会社が売主の場合、買い替えは予定していないから
・仲介の仕事も取れるから
まず、不動産会社は個人の売主とは異なり、買い替えではなく、単純な売却となっていることがほとんどです。
買い替えのように次に購入を控えていることはないので、買主に縛られたとしても、大きな問題は生じません。
むしろ、売却できる確実性が上がることにメリットがあります。
次に、不動産会社が売主で買い替え特約を締結する場合、Aさんの売却の仲介も売主の不動産会社が行うケースが多いです。
仲介もセットになっている買い替え特約は、「媒介依頼型」とも呼ばれます。
仲介の契約条件として、専任媒介契約または専属専任媒介契約(いずれもその不動産会社にしか仲介を依頼できない契約)となっていることが一般的です。
不動産会社が買主を見つけてくれば、不動産会社はAさんからもCさんからも仲介手数料を取ることができます。
不動産会社は、売却による「売却益」と仲介による「手数料収入」がダブルで入ってくるため、買い替え特約を締結するメリットがあるのです。
実際に、買い替え特約は売主が不動産会社であるケースがほとんどになります。
買主として買い替え特約を希望する場合には、不動産会社が売主の物件を探すのが良いでしょう。
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4-3.買主が物件を安く売る可能性も出てくる
買い替え特約は、買主にも少なからずデメリットは生じます。
それは、どうしても本契約の物件を購入したいときは、買主が物件を安く売る可能性も出てくるという点です。
買い替え特約を利用すると、買主は本契約で購入する物件を契約して抑えることができます。
売主には拘束されるというデメリットがありますが、買主は拘束できるというメリットが生じます。
どうしても欲しい物件であれば、買い替え特約を使って抑えるのが便利です。
しかしながら、抑えることはできたとしても、どうしても欲しい物件の場合、売却期限までになんとかして自分の物件を売却しなければならないとい制限も生まれます。
そのため、買主が自分の物件を安く売り、無理矢理、解除期限まで間に合わせるようなこともあるのです。
買主がどうしても欲しい物件に対して買い替え特約を利用する場合には、安く売ることに繋がるというデメリットもあるということも知っておきましょう。
5.確実に遂行するなら下取り契約型
買い替え特約を確実に遂行するなら「下取り契約型」を選択するという方法もあります。
下取り契約型とは、買取保証とセットになった買い替え特約です。
買取保証とは、一定期間、仲介で売却をチャレンジし、その期間内で売却できなかったら不動産会社が下取りとして買い取るというサービスになります。
不動産会社は転売を目的とした下取り価格で買い取りますので、買取となった場合の売却価格は仲介による価格の80%程度です。
買取保証を使えば、仲介で売却できれば普通に高く売れますし、最終的には買取によって確実に売却を終わらせることができるというメリットもあります。
下取り契約型も、売主が不動産会社の場合に行われます。
Aさんは買い替え特約を付けて一定期間、仲介による売却も可能です。
仮に、仲介による売却ができなかったとしても、最終的に売主である不動産会社が買い取ってくれるため、契約解除せずに確実に物件を購入できる仕組みとなります。
売主の不動産会社としては、Aさんに売ることで売却益を得て、さらにAさんから次の物件を仕入れることができます。
一周グルっとお金が回る感じですが、次の転売物件も同時に仕入れることができるため、不動産会社には十分なメリットがあるのです。
売主の物件がどうしても欲しく、かつ、最終的には安く売却しても構わないという人であれば、購入が確実にできる下取り契約型の買い替え特約がおススメとなります。
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6.まとめ
以上、買い替え特約について解説してきました。
買い替え特約とは、購入者の持っている物件が売却できなかった場合、契約が解除されるという条件の特約です。
買い替え特約は、停止条件ではなく、解除条件の解除権留保型で締結されるのが一般的です。
買い替え特約は、買主にとって非常にメリットはありますが、売主は立場が不安定になるという大きなデメリットがあります。
一般的に、買い替え特約は売主が不動産会社の場合に利用されることが多いです。
売主が不動産会社の場合、媒介依頼型または下取り契約型となります。
購入物件にこだわりがなく高く売りたい人は媒介依頼型、購入物件がどうしても欲しく多少安く売却しても構わない人は下取り契約型を選択するのが良いでしょう。
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