2018年4月より既存住宅の売却でインスペクション(建物状況調査)制度が開始されました。
制度上、全ての住宅に対して不動産会社がインスペクションについての説明を行うため、売主にはインスペクションの実施ついて判断が求められるようになっています。
この記事では以下の疑問にお答えします。
「インスペクションって意味があるの?」
「インスペクションはやらなくてもよい?」
「購入希望者がインスペクションしたいって言ってきたけど、どうしたらいいの?」
結論からすると、インスペクションは物件によって必要性の低いものや、やった方が良いものがあります。
また、買主がインスペクションを希望してきたら、応諾することをおススメします。
そこで、この記事ではインスペクションの現状を踏まえ、インスペクションを「やる必要のない物件」や「やった方が良い物件」について解説します。
また、インスペクションを実施しなかったときのリスク、または実施したときのリスクも、さらに買主から要求されたときの対処法についてもご紹介します。
ぜひ最後までお読みいただき、インスペクションの実施の判断に役立てていただけると幸いです。
この記事の筆者:竹内英二 (不動産鑑定事務所:株式会社グロープロフィット代表取締役) 保有資格:不動産鑑定士・宅地建物取引士・中小企業診断士・不動産コンサルティングマスター・相続対策専門士・賃貸不動産経営管理士・不動産キャリアパーソン |
目次
1.インスペクションの現状
2018年4月よりインスペクション制度が開始され半年以上が過ぎました。
インスペクションは、購入希望者にとって非常に有益な情報が得られるため、購入希望者からインスペクションを希望するケースが増えています。
一方で、売主が自主的にインスペクションを行うケースが非常に少ないです。
売主側がインスペクションを行うパターンとしては、不動産会社が仲介サービスの一環として無償で行っているケースが大多数を占めています。
さらに、購入希望者からインスペクションのオファーがあった際、断る売主も多くなっています。
インスペクションは、買主にとって非常にメリットがあるため、今後も買主側からのオファーは増えそうだというのが今のところの現状です。
インスペクションについては、公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会にてアンケート調査を行っています。
ここではアンケート調査の一部についてご紹介します。
1-1.インスペクションの認知度
アンケートでは「インスペクションについて知っているか」について調査を行っています。
調査時点は2017年でインスペクション制度が始まる前のものですが、2017年の時点では「知らない」と「聞いたことはあるが内容は知らない」の合計が89.1%となっており、9割近くの人に正確に認知されていない状況となっています。
2017年「 不 動 産 の 日 ア ン ケート 」より
アンケート結果から、インスペクションの認知度はまだまだ低いことが分かります。
2018年4月以降、インスペクション制度は始まったものの、メディアではそれほど多くは取り上げられていません。
現状でも、おそらく売買の際に初めて知る人が多いものと思料されます。
1-2.インスペクションの効果
アンケートでは「インスペクションの利用効果」についても調査を行っています。
2017年「土地・住宅に関する消費者アンケート調査ウェブアンケート調査結果」より
「自宅の売却が希望価格で売れた(64.3%)」、「買手が早く見つかり売却がスムーズにできた(51.8%)」というプラスの評価が上位を占めています。
一方で、「検査の結果、住宅の補修を求められた(21.4%)」、「検査の結果、価格の値引きを求められた(10.7%)」というマイナスの側面も回答として存在します。
1-3.借主は知りたがっている
アンケートでは「中古住宅の購入を考える場合、必要と思われること」についても調査を行っています。
2017年「 不 動 産 の 日 ア ン ケート 」より
「瑕疵担保保険が付されていること(64.0%)」、「履歴情報が残っていること(63.1%)」、「インスペクションが付されていること(62.8%)」となっており、瑕疵担保保険やインスペクションは買主にとっては関心が高いことが分かります。
瑕疵(カシ)とは、雨漏りやシロアリによる床下の腐食等、通常有すべき品質を欠くことをいいます。
売主は知っている瑕疵を告げずに売却した場合、損害賠償請求または契約解除といった瑕疵担保責任を負うことになります。
インスペクションや瑕疵担保保険は認知度こそ低いものの、知っていると買主は6割以上の確率で必要と感じていることが分かります。
ちなみにアンケートでは、瑕疵担保保険の認知度についても調査を行っています。
瑕疵担保保険については2割以上の人が知っており、インスペクションの2倍以上の認知度があります。
2017年「 不 動 産 の 日 ア ン ケート 」より
必要と思われることでも瑕疵担保保険の方が数値はやや高いです。
瑕疵担保保険は、瑕疵が発見されたときの修繕費用の一部を保険金でカバーできる保険です。
また、瑕疵担保保険は、不動産取得税と登録免許税の軽減や住宅ローン控除の適用要件となっていることから、買主にとっての明確なメリットがあり、インスペクションよりも関心が高いものと思われます。
瑕疵担保保険が付くと、保証書付きの建物を購入できるようなものであり、なおかつ、購入の税金も安くなることから、買主にとってはインスペクションよりも数段上のメリットがあります。
尚、瑕疵担保保険に加入するにはインスペクションに合格していることが1つの要件です。
そのため、購入希望者の多くは、瑕疵担保保険の付保を前提としてインスペクションを要望していることが多いのが現状となっています。
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2.インスペクションをやる必要のない物件
インスペクションをやる必要が低い物件を挙げるとすると、以下のような物件となります。
1.築5年以内の戸建てやマンション
2.取壊しを前提とした更地価格よりも安い戸建て
3.築25年以内のマンション
4.売却が難しい低廉な空き家
1つ目としては、築5年以内の戸建てやマンションが挙げられます。
築5年以内であれば、十分が築浅物件であり、建物に劣化事象はほとんどないものと思われます。
買主も十分に新しい物件と認識して購入しますので、インスペクションへの期待値が低いです。
築浅物件を売却するのであれば、無理にインスペクションはしなくて良いでしょう。
2つ目としては取壊しを前提とした更地価格よりも安い戸建てです。
査定の結果、更地価格よりも低いような戸建ては買主が取り壊すことが前提となっています。
買主が建物を取り壊すのであれば、そもそもインスペクションを実施する必要はありません。
また、買主が購入後、数年したら取壊すといっているような建物も、インスペクションは不要と考えられます。
非常に老朽化の激しい古い物件は、インスペクションを行うよりは、売主が認識している瑕疵の部分をしっかりと買主に告知し、瑕疵担保責任を全部免責する対応の方が現実的な対処法と言えます。
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3つ目としては、築25年以内のマンションが挙げられます。
インスペクションは、どちらかと言うと戸建ての買主を守るための制度であり、マンションのような頑丈な躯体の建物に適用されることを、あまり想定していません。
マンションの購入者は、建物に対する不安は戸建ての購入者よりも低い傾向にあります。
また、築25年以内のマンションであれば、瑕疵担保保険が付保されていなくても、購入者が住宅ローン控除を適用でき、不動産取得税や登録免許税の軽減を受けることができます。
そのため、築25年以内のマンションは、税制上は瑕疵担保保険が付保されている物件と同じの税制優遇を受けることができるのです。
一方で、横浜市で杭工事の不備により発生した「傾きマンション」のように、マンションであっても躯体に問題を抱えていることはあります。
傾きマンションのような問題は、インスペクションで発見されるというよりは、既にマンション管理組合の中で話題となって取り上げられていることが多く、売主としては「知っている瑕疵」に該当していることがほとんどです。
既に知っている瑕疵については、インスペクション以前の問題であり、売主は瑕疵を告知しなければなりません。
マンションの場合、建物全体に波及する問題は、告知すべき内容になっていることが多いと思われます。
告知すべき内容は、インスペクションとは分けて考え、きちんと告知するようにしましょう。
4つ目としては、価格が数百万程度でも売却が難しい低廉な空き家です。
人口減少と高齢化が著しいエリアでは、何をやっても売却できないような空き家が存在します。
市場性の低い空き家は、元々、買主が現れにくいため、インスペクションを実施してもほとんど効果がなく、無駄な費用に終わってしまう可能性があります。
インスペクションは、ある程度の需要があるところで実施してこそ、効果があります。
低廉な空き家であれば、購入希望者がインスペクションをしたいと申し出てきたら、快諾するという対応で良いでしょう。
3.インスペクションをやった方が良い物件
インスペクションを実施すると売却する上で、差別化となるため、前章で紹介した物件以外であれば、基本的にはやった方が良いです。
しかしながら、特にインスペクションをやった方が良い物件を挙げるとすると、以下の2つの物件になります。
1.昭和56(1981)年6月1日以降の建築で、かつ、築20年超の戸建て
2.昭和56(1981)年6月1日以降の建築で、かつ、築25年超のマンション
築20年超の戸建てまたは築25年超のマンションは、そのままでは買主が住宅ローン控除の適用や、不動産取得税と登録免許税の軽減を受けることができません。
特に住宅ローン控除が使えないことの影響は大きく、購入者の選考から漏れてしまう可能性が十分にあります。
しかしながら、築20年超の戸建てまたは築25年超のマンションであっても、瑕疵担保保険に加入していると、住宅ローン控除の適用や、不動産取得税と登録免許税の軽減を受けることができます。
中古住宅の住宅ローン控除の適用要件
瑕疵担保保険に加入するには、「新耐震基準に適合していること」と「インスペクションに合格していること」の2つの要件が必要となります。
新耐震基準とは、昭和56(1981)年6月1日以降に建築確認申請を行って建てられた建物になります。
2018年時点では、戸建てであれば1981年から1997年の間(16年間)、マンションであれば1981年から1992年の間(11年間)に建築されたものが、新耐震基準に適合しながらも住宅ローン控除の適用等が受けられない空白の期間の建物となっています。
制度上、変な隙間がありますが、この空白の期間に建築された戸建てやマンションは、インスペクションに合格すると住宅ローン控除の適用等が受けられる建物に生まれ変わることができます。
ちなみにSUUMOのマンション検索画面では、検索条件の入力で以下のような選択肢があります。
インスペクションに合格していれば、瑕疵担保保険を付保することができるため、住宅ローン控除を使える可能性が出てくるのです。
築20年超の戸建てまたは築25年超のマンションの場合には、売主側でインスペクションを実施しておくと、物件に大きな付加価値を与えることができます。
住宅ローン控除の適用等が受けられない空白の期間の建物は、インスペクションの実施を積極的に検討することをおススメします。
4.インスペクションを無料で行う方法
現在、大手の不動産会社を中心に、インスペクションを無料で実施してくれる仲介サービスが増えてきています。
無料でインスペクションをするには、専属専任または専任の媒介契約が条件となります。
インスペクション無料サービスは、HOME4Uを利用して探すのが便利です。
HOME4Uは大手から地元中規模不動産会社まで、様々な会社がバランスよく登録されています。
例えば、HOME4Uの登録企業の中で、野村の仲介+や三井住友トラスト不動産、大成有楽不動産販売、三菱UFJ不動産販売などは無料インスペクションサービスを実施しています。
その他、中堅の不動産会社でも無料インスペクションサービスは順次、取り入れ始めています。
HOME4Uは力のある中堅不動産会社も多く登録されていますので、無料インスペクションサービスを実施してくれる不動産会社を見つけやすいです。
現在では、インスペクションは売主自らやりたがらない人が多いです。
そのため、このような無料インスペクションサービスを利用すると、他の物件よりかなりの差別化になります。
ちなみに東京港区のマンションでインスペクション済みの物件を検索したところ、1,760件中のたった4件しかありませんでした。
かなり目立ち、買主から選択されやすいことが分かります。
東京港区マンションのSUUMO検索結果(1,760件中4件のみ)
HOME4Uを利用して、無料でインスペクションを行ってくれる不動産会社を見つけましょう。
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5.インスペクションをやらなかったときのリスク
インスペクションをせずに売却すると、買主が購入後すぐにインスペクションを行い、瑕疵を発見して売主を訴えてくるリスクがあります。
インスペクション制度が導入された以降、訴えられたケースとしては、購入希望者がインスペクションを要望したのにも関わらず、売主が拒んでそのまま売却したという事案です。
インスペクション制度では、買主も必ずインスペクションの説明を受けますので、インスペクションについて無知のまま購入することはありません。
認知度の低いインスペクションですが、制度を知ると多くの買主はインスペクションに興味を示します。
インスペクションは5万円程度ですので、何千万円もする大きな買物で失敗したくないと思う買主にとってみれば安いものです。
購入希望者は、インスペクションをやってみたいと思うのですが、そこで売主が断ってしまうと、物件に対して疑心暗鬼になります。
インスペクションは購入後も可能ですので、購入後すぐに買主にインスペクションを行われてしまうと、瑕疵担保責任も追及されてしまいます。
そのため、売主はやらずとも、購入希望者がやりたいと言い出した場合、少なくとも合意して購入希望者の費用負担でインスペクションを実施してもらうべきです。
売却前に白黒はっきりさせておけば、売主としても安心感を得ることができます。
購入希望者からインスペクションの要望があったとき、断ることはリスクが非常に高いです。
買主には購入後すぐにインスペクションができるということを前提に可否を判断しましょう。
6.インスペクションをやったときのリスク
インスペクションをやったときのリスクというのも存在します。
ここで再度、インスペクションの利用効果のアンケート結果を示します。
2017年「土地・住宅に関する消費者アンケート調査ウェブアンケート調査結果」より
調査結果では、少数派意見ですが、「検査の結果、住宅の補修を求められた(21.4%)」、「検査の結果、価格の値引きを求められた(10.7%)」という回答もあります。
インスペクションをすることで、補修費用が発生したり、値引交渉を受けたりするリスクがあります。
また、インスペクションを実施することで、購入を見送られるリスクもあります。
アンケートの数値からすると、マイナーな回答ではありますが、補修費用や値引き交渉の発生は、正直、気になるところです。
売主自ら実施するのに気が進まないということであれば、少なくとも購入希望者が要求してきたときのみ対応するという判断も賢明な選択と言えるでしょう。
7.買主から要求されたらやるべき
インスペクションは売主がやらなくても、購入希望者が実施したいと申し出てくる時があります。
購入希望者が要求してきたら、よほどのことがない限り、応諾すべきです。
アメリカでは、インスペクションはほとんど買主負担で実施しますので、今後、日本でも購入希望者からの要求が増えてくるものと思われます。
現状では、インスペクションを要求された売主は、「粗探し」をされるような気分になっており、断っている人が多いです。
しかしながら、インスペクションを実施要求してくる人は、購入後、自らインスペクションをして瑕疵があったら訴えてくる可能性もあるので、訴えられないためにも売却前にインスペクションを実施した方が良いです。
また、インスペクションを要求してくる購入希望者は、決して「粗探し」のためでなく、ほとんどの人が瑕疵担保保険の付保を目的として実施要求をしています。
住宅は、個人から購入する場合、ほとんど保証がありません。
新築住宅なら、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)によって10年間の保証が付いています。
築10年以内の売却でも売却すると品確法の保証は引き継げません。
また、中古住宅でも売主が宅建業者なら最低2年間の瑕疵担保責任期間がありますし、消費者契約法によっても買主を一方的に害する条項が定められないようにもなっています。
しかしながら、個人の売主から不動産を購入する場合、売主の瑕疵担保責任期間はせいぜい3ヶ月程度となり、消費者契約法も適用されないため、買主がほとんど守られません。
場合によっては、瑕疵担保責任を全部免責されることもあります。
このように、個人から住宅を購入する場合、保証がほとんどないため、何千万円の買い物をする割には、かなりアンバランスな状況となっています。
買主からすると、瑕疵担保保険を付保できれば、保証付きの住宅を手に入れることができます。
中古住宅が保証付きになれば、買主も随分と購入しやすくなります。
また、インスペクションに合格すれば、売主も瑕疵担保責任の不安が和らぎ、安心して物件を売却することができます。
買主の費用負担で安心が手に入ると考えれば、応諾しない手はないでしょう。
尚、購入希望者がインスペクションを要望してきたときは、事前に合意書を締結します。
事前の合意書に、以下の3つの内容を盛り込みます。
1.費用は買主が負担する。(契約不成立となっても他に請求しない)
2.第三者に調査結果を漏洩しない。
3.売主または仲介会社に写しを提供する。
合意書は以下のようなイメージになります。
購入希望者が実施する場合には、結果次第では売却が破談となることもあります。
破談となっても、費用はあくまでも買主が負担し、情報漏洩はさせず、結果の写しはもらっておくことがポイントです。
購入希望者から申し出があった場合には、断らずに応諾するようにしましょう。
8.まとめ
以上、インスペクションは意味があるか?やらなくてもよい?判断の仕方を解説してきました。
インスペクションは、昭和56年6月1日以降の建築で、かつ、築20年超の戸建てまたは築25年超のマンションであれば、ぜひ売主側でやった方が良いです。
また、インスペクションを購入希望者から要求されるケースは増えてきています。
購入希望者から要求された場合には、合意書を締結して積極的に応諾するようにして下さい。
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