不動産会社との仲介の契約の中に一般媒介契約があります。
一般媒介契約とは、売主が複数の不動産会社に重ねて売却を依頼できる契約です。
媒介とは、不動産会社に依頼する仲介やあっせんのことを指します。
一般媒介契約は、従来から売主に有利な契約形態として知られています。
不動産を高く、早く売りたいのであれば一般媒介契約を選択するのが基本です。
ところが、一般媒介契約があるにもかかわらず、専任媒介で不動産会社選びに失敗したと感じる人は少なくありません。
一般媒介であれば、不動産会社を1社に絞る必要はないため、不動産会社選びの失敗も防ぐことができます。
不動産を売却するのであれば、まずは媒介契約の制度や仕組みを知ることが重要です。
そこでこの記事では不動産売却における「一般媒介」について詳しくご紹介いたします。
お読みいただくことで、一般媒介契約とは何かについて理解することができます。
ぜひ最後までご覧ください。
この記事の筆者:竹内英二 (不動産鑑定事務所:株式会社グロープロフィット代表取締役) 保有資格:不動産鑑定士・宅地建物取引士・中小企業診断士・不動産コンサルティングマスター・相続対策専門士・賃貸不動産経営管理士・不動産キャリアパーソン |
目次
1.一般媒介とは
不動産会社と締結する媒介契約には、「一般媒介契約」、「専任媒介契約」、「専属専任媒介契約」の3種類があります。
一般媒介契約とは、他の不動産会社に重ねて仲介の依頼ができる契約です。
つまり、何社にでも仲介を依頼できる契約になります。
それに対して、専任媒介契約や専属専任媒介契約は、他の不動産会社に重ねて仲介の依頼が禁止されている契約です。
つまり、1社にしか仲介を依頼できない契約になります。
専任媒介契約と専属専任媒介契約では、自己発見取引ができるかどうかについての違いがあります。
自己発見取引とは、売主が自ら買主を探してくることです。
自己発見取引をできるのが専任媒介契約で、自己発見取引すらできないのが専属専任媒介契約になります。
一般媒介契約では、もちろん自己発見取引も可能です。
仲介というのは、売主と買主を結びつけるマッチングサービスです。
マッチングは数が多いほど、良い条件の買主が見つかる可能性が高くなります。
仲介も、複数の不動産会社が行えば、マッチングの数が増えるため、必然的に高く買ってくれる買主を見つかる確率が上がります。
しかも早く見つかる確率も上がります。
一般媒介契約なら、複数の不動産会社に仲介を依頼することができるため、高く早く売れるようになります。
一般媒介契約だから早く高く売れるのではなく、複数の不動産会社に仲介を依頼するから早く高く売れるのです。
複数の不動産会社に仲介を依頼できるのは一般媒介だけですので、一般媒介の仕組みを十分に知っておくと得をします。
2.一般媒介と専任媒介の違い
「一般媒介」と「専任媒介または専属専任媒介(以下、「専任媒介等」と略)」の最大の違いは、複数の不動産会社に依頼できるか、または1社にしか依頼できないかという点です。
専任媒介等は仲介を1社にしか依頼できないことから、売主(依頼主)にとって明白に不利な契約になります。
具体的には1社に限定してしまうと、依頼した不動産会社が全く販売活動を行わず、媒介契約の期間中はその不動産会社の理不尽な対応に拘束され不利益を受ける可能性があります。
専任媒介等は依頼者に不利益を与える可能性があることから、専任媒介等を締結した不動産会社に対して、以下の3つの義務を課しています。
1.指定流通機構への目的物件の登録義務
2.登録済証の交付義務
3.業務処理状況の報告義務
指定流通機構とは、レインズ(REINS:Real Estate Information Network System)と呼ばれる宅地建物取引業者専用のネットワークシステムのことです。
レインズに物件が登録されると不動産会社間が物件情報を共有しあうことができるため、他の不動産会社が買主を見つける可能性が高まり、仲介が成約する確率が高まることになります。
レインズに物件登録すると、不動産会社に対して登録済証が発行されます。
その登録済証を依頼者に交付するのが「登録済証の交付義務」です。
また、専任媒介等では、「業務処理状況の報告義務」も課されます。
専任媒介契約では2週間に1回以上、専属専任媒介契約では1週間に1回以上の報告義務があります。
これらの義務は、一般媒介と専任媒介等が依頼者に与える不利益の不均衡を是正するために設けられた義務です。
宅地建物取引業法では、一般媒介は特に依頼者に不利益をもたらす可能性が低いと考えていることから、一般媒介に専任媒介等で課せられている義務はありません。
一般媒介では、レインズの登録や業務処理状況の報告はありませんが、それは一般媒介が売主に不利な契約ではないためです。
宅地建物取引業法には、専任媒介等は1社限定という強い拘束を受けることから、売主にデメリットが生じるという発想があります。
業務処理状況の報告義務等は、一般媒介と専任媒介等が生み出す不利益を是正するために業者に課された義務であることを理解しておきましょう。
【関連記事】
一般媒介・専任媒介・レインズとは?不動産売却でおすすめの媒介契約を紹介
3.一般媒介契約の期間
一般媒介契約については、宅地建物取引業法で契約の有効期間は定められていません。
結論からすると、一般媒介契約の期間は何ヶ月でも良いということになります。
一方で、専任媒介等については、宅建業法第34条の2第1項3号で最長3ヶ月と定められています。
【宅建業法第34条の2第1項3号】
3.依頼者が他の宅地建物取引業者に重ねて売買又は交換の媒介又は代理を依頼することを禁ずる媒介契約(以下「専任媒介契約」という。)の有効期間は、三月を超えることができない。これより長い期間を定めたときは、その期間は、三月とする。
一般媒介契約の場合、売主が1社に拘束されないため、契約期間が長くても売主の不利益にはなりません。
宅地建物取引業法は専任媒介等が売主にとって不利であると考えているため、専任媒介等にしか期間制限を設けていないことになります。
尚、一般媒介の契約書は国土交通省の定める標準媒介契約約款を用いることが多いです。
標準媒介契約約款では、一般媒介でも有効期間を「3ヶ月を超えない範囲で、依頼者・業者協議の上、定める」と規定しています。
これは、専任媒介等の条文を準用して記載しているだけであり、宅地建物取引業法に基づく規制ではありません。
一般媒介契約の期間には特段の定めはないということになります。
4.一般媒介契約の手数料
一般媒介契約であっても、発生する仲介手数料は専任媒介等と同じです。
これは仲介手数料が成功報酬であることが理由です。
例えば、一般媒介契約で6社に売却を依頼した場合、6社分の手数料がかかるかというと、そういうことにはなりません。
仲介手数料は成功報酬ですので、売却を決めてくれた1社にのみ支払えば良いのです。
不動産会社が仲介手数料をもらうには、以下の3つの要件が必要となっています。
これは「媒介報酬請求権の3要件」と呼ばれています。
【媒介報酬請求権の要件】
1.業者と依頼者との間で媒介契約が成立していること
2.その契約に基づき業者が行う媒介行為が存在すること
3.その媒介行為により売買契約等が有効に成立すること
3つ目の「その媒介行為により売買契約等が有効に成立すること」という要件が、売買が決まったこと、つまり仲介手数料は「成功報酬」であることを意味しています。
複数の不動産会社に依頼した場合、売買を決められなかった他の不動産会社は、要件を満たさないため媒介報酬の請求権が発生しないことになります。
6社に売却を依頼しても、1社が決めてくれたらその会社だけに手数料を支払い、残りの5社には何も支払いません。
結局のところ、一般媒介契約では、何社に売却を依頼したところで、専任媒介等とかかる手数料は同じということです。
同じコストで何社にも依頼できることから、売主にとっては一般媒介の方が有利となります。
一方で、不動産会社にとってみると、一般媒介で仲介手数料を得るためには、他社よりも「できるだけ早く、できるたけ高く」売却する必要が出てきます。
一生懸命頑張らないと、手数料は全くもらえません。
仲介手数料は成功報酬であるという理由から、一般媒介で依頼すると、不動産会社の間で競合関係が生じます。
競合関係が生じる結果、一般媒介の方が早く高く売れるのです。
【関連記事】
仲介手数料の計算式エクセル「3%+6万円」や「400万円以下」・消費税も解説
5.明示型と非明示型
一般媒介契約には、明示型と非明示型というものがあります。
明示型とは、他に依頼する不動産会社を明らかにする方式です。
例えば、A社とB社、C社に依頼する場合、A社には「B社とC社にも依頼します。」と言わなければならないのが明示型になります。
一方で、非明示型とは他に依頼する不動産会社を明らかにしない方式です。
例えば、A社とB社、C社に依頼しても、A社にはB社やC社の存在をいう必要はありません。
また、後から追加でD社にも依頼する場合、非明示型では他社に告げる必要はないということになります。
明示型の場合、黙って追加した他の不動産会社で成約してしまったときは、明示義務に違反となり費用償還の請求対象となります。
不動産会社の今までかかった費用を支払うということであり、いわば「違約金」に該当します。
非明示型であれば、黙って追加した不動産会社が売買を決めても、このような違約金は発生しません。
明示型と非明示型を比べると、非明示型の方が圧倒的に自由度は高いです。
そのため、一般媒介を利用するには、「非明示型」が絶対におススメです。
ところが、国土交通省の定める標準媒介契約約款は、なぜか「明示型」となってしまっています。
そのため、不動産会社が持ってきた契約書にそのまま判子を押してしまうと、「明示型」を選択してしまいますので注意が必要です。
標準媒介契約約款で非明示型とするには、特約として以下のような特記事項を定める必要があります。
【非明示型とする特記事項】
依頼者が他の業者に重ねて依頼する場合でも、その業者名を明示する義務を負わない
非明示型にすれば、「明示忘れ」を防止することができて安心です。
一般媒介を契約する場合には、非明示型を選択するようにしましょう。
6.一般媒介契約の解除
一般媒介契約は、媒介契約の解除も自由にできます。
それに対して、専任媒介等は、売主都合による一方的な解除については、費用償還請求(違約金)を受けることになります。
専任媒介等の解除は、違約金が発生するため、売主の勝手な都合で解除することができません。
「なんとなく不動産会社の動きが悪いから解除したいな~」と思っても、解除できないのが専任媒介等です。
一方で、一般媒介契約の場合は、「不動産会社の動きが悪いな~」程度の理由でも解除ができます。
ただ、別に解除しなくても、新たに力のある不動産会社を加えれば良いだけですので、わざわざ解除しなくても構わないのです。
一般媒介では、不動産会社に不満が生じた場合には、解除もできますし、別の不動産会社も加えることができます。
【関連記事】
専任媒介契約を解除したい!費用や違約金はかかるの?解除方法を解説
7.一般媒介契約のメリット
この章では一般媒介契約のメリットについてご紹介します。
7-1.高く早く売れる
一般媒介は複数の不動産会社に売却を依頼することができるため、高く早く売れるというメリットがあります。
高く早く売れる理由は、仲介手数料が成功報酬型の「早い者勝ち」であるためです。
一般媒介では、不動産会社が仲介手数料を得るには、他社よりも早く、高く売らなければなりません。
専任媒介等よりも頑張る動機付けが強くなり、高く早く売れる確率が高まります。
また、売買というのは情報戦です。
複数の不動産会社に依頼すれば、それだけ多くの不動産会社の情報網を駆使することができます。
買主情報が見つかる確率が高まりますので、一般媒介の方が高く早く売れるのです。
7-2.不動産会社選びに失敗しない
一般媒介では不動産会社選びに失敗しないというメリットがあります。
そもそも、1社に選ぶ必要がないため、不動産会社選びで失敗するということはまずあり得ません。
専任媒介等では不動産会社選びに失敗し、売却が全然進まないことがあります。
一度も仕事をしたことのない人を選ぶということは非常に難しい行為です。
たまに、「どうやって不動産会社を選べば良いのですか?」と聞かれますが、そもそも一般媒介を使えば不動産が社を選ぶ必要はありません。
無口で暗い感じの人でも、黙々と仕事をこなして成果を出す人はいます。
明るく爽やかな感じの人でも、いざ仕事を任せたら適当で全然ダメな人もいます。
ちょっとの面談程度では、その人の実力というのは分かりません。
一般媒介であれば、「アタリ」と「ハズレ」の両方に依頼することができるため、結果的に「アタリ」ます。
不動産会社選びなどをせずに、「アタリ」の会社に依頼できるのが一般媒介のメリットです。
7-3.囲い込みリスクがない
一般媒介では囲い込みリスクがないというメリットがあります。
囲い込みとは、他の不動産会社が買主を紹介してきても断わる行為です。
不動産会社は専任媒介等を契約すれば、売主からは確実に仲介手数料を取ることができます。
しかも、自力で買主を見つけてくれば、買主からも仲介手数料を取ることができます。
売主と買主の両方の仲介を行うことを両手仲介と呼びます。
両手仲介となれば、不動産会社にとって手数料は2倍となります。
両手仲介を狙う場合、他の不動産会社からの客付の申出は邪魔になります。
他の不動産会社に買主の客付をされてしまうと、買主からの仲介手数料はもらえないからです。
邪魔だと感じれば、他の不動産会社からの客付の申出も、「いや~、もうこっちで決まりそうだから」と断ってしまうこともあります。
このような行為を「囲い込み」と呼んでいます。
専任媒介等では不動産会社に3ヶ月間の余裕がありますので、囲い込みをやろうと思えばできてしまうのです。
一方で、一般媒介の場合は不動産会社の早い者勝ちですので、囲い込みをしている余裕はありません。
片手仲介(一方からしか手数料がもらえないこと)でも構わないので、良い話があればパッと飛びついて売買を成立させようとします。
一般媒介は不動産会社の競争関係の中で売却が決まるため、囲い込みもなく、取引の透明性が確保されるのです。
8.一般媒介契約のデメリット
この章では一般媒介契約のデメリットについてご紹介します。
8-1.無料サービスを受けられない
一般媒介では、大手の不動産会社が提供している仲介に付随する無料サービスが受けられないというデメリットがあります。
近年、大手の不動産会社を中心に、専任媒介等のサービス向上が進んでいます。
無料サービスには、例えば「インスペクションの実施」や「瑕疵(かし)担保保険の付保」、「ホームステージング」等があります。
インスペクションとは専門家による建物状況調査のことです。
瑕疵担保保険とは、売却後に雨漏り等の瑕疵が発見された場合、その修繕を保険金でカバーできる保険です。
ホームステージングとは、住宅をモデルルームのように演出して売却するサービスになります。
【関連記事】
インスペクション(建物状況調査)とは?意味や効果・費用を徹底解説
既存住宅売買瑕疵保険とは?メリットや費用・付保証明書を徹底解説
インスペクションは意味があるか?やらなくてもよい?判断の仕方を解説
インスペクションや瑕疵担保保険等は、住宅の付加価値を高めてくれるため、実施することで高く売りやすくなります。
これらの実施には費用がかかりますが、大手の不動産会社では専任媒介等を条件に無償で行ってくれる会社があります。
一般媒介を選択すると、これらの無料サービスを受けることができません。
近年は、大手の無料サービスも手厚くなっているため、無料サービスが受けられないのはデメリットといえます。
仮に専任媒介等を選択するのであれば、無料サービスの充実した不動産会社を選ぶのが良いでしょう。
8-2.仲介手数料を値引きしにくい
一般媒介では、仲介手数料を値引きしにくいというデメリットがあります。
専任媒介等でも値引きは難しいのですが、専任媒介等は不動産会社にとって有利な契約であるため、一般媒介よりも値引きはしやすいです。
一般媒介は、仲介手数料を得るために不動産会社の間で競合関係が生まれます。
しかしながら、頑張って勝ち取った媒介報酬請求権なのに、手数料が値引きされるようでは、不動産会社にモチベーションは生まれません。
仲介手数料が満額もらえるからこそ、頑張れるのであって、手数料が安いということであれば、頑張らなくなってしまいます。
一般媒介のメリットをフル活用するのであれば、手数料は割り切って報酬上限額の満額を支払うつもりが良いでしょう。
【関連記事】
仲介手数料って高い!不動産売却で手数料を値引きする10個の方法教えます
8-3.同じことを何社にも伝えなければならない
一般媒介は複数の不動産会社に依頼しますので、同じことを何社にも伝えなければならないというデメリットがあります。
まず複数の不動産会社をかき集める必要がありますし、各社に対して物件説明もする必要があります。
急用ができて内覧の対応ができなくなったような場合も、各社に伝えなければなりません。
内覧とは、購入希望者に対して家の中を見せる行為です。
内覧の申し込みもあっちこっちの会社から入るため、さばくのが大変になります。
【関連記事】
住みながら売却!マンション・戸建てを高く売るための内覧を解説
一般媒介では、会社を増やせばその分、手間も増えます。
短期決戦で早く売れますが、販売期間中はバタバタします。
何社も対応するのは面倒だと感じるようであれば、専任媒介等の方が良いでしょう。
9.一般媒介なら一括査定サイトがおススメ
一般媒介を使って不動産を売却するのであれば、一括査定サイトがおススメです。
一括査定サイトは、一般媒介と非常に相性が良く、一般媒介ならぜひ一括査定サイト使った方が良いです。
一括査定サイトとは、インターネットで簡単な入力を行うだけで、複数の不動産会社から無料で訪問査定を受けることができるサービスです。
複数の不動産会社に売却を依頼するには、そもそも不動産会社をかき集めなければいけません。
複数の不動産会社に電話してアポを取るのは大変手間です。
しかしながら、一括査定サイトを使えば、簡単に複数の不動産会社をかき集めることができますので、一般媒介に向けた土壌を作ることができます。
査定を受けた全ての不動産会社に、一般媒介で売却を依頼してしまえば、複数の不動産会社による売却体制をすぐに築けます。
一括査定サイトは、NTTデータグループが運営している「HOME4U」が一番おススメです。
ちゃんとした不動産会社が登録されており、安心して売却依頼をすることができます。
【関連記事】
不動産一括査定って不安?デメリットや老舗度ランキングによるおすすめを紹介
HOME4Uの口コミや評判は?プロが評価するメリットとデメリットも解説
一括査定サイトは、一般媒介の「手間がかかる」というデメリットをかなり解消してくれるツールです。
一般媒介と相性が抜群ですので、ぜひ一括査定サイトをご利用ください。
10.まとめ
以上、一般媒介とは?期間や手数料・メリットとデメリットについて解説してきました。
一般媒介は売主によって有利な契約形態になります。
どの媒介契約を選択するかは、売主の自由です。
媒介制度を十分に理解した上で、自分に適した契約形態を選択するようにしましょう。
【あわせて読みたい】