売主の中には「マンションが売れないときの値下げはいくらが適切か」、また買主の中には「マンションを購入するときの値引き交渉はいくらが妥当か」について知りたい人も多いと思います。
千葉市内で実際に取引されたマンション100件を調査したところ、平均の値引き額は「50万円」、平均の値引き率は「4.7%」でした。
売り出し価格から実際に売買される成約価格まで下げることを、売主は「値下げ」、買主は「値引き」と表現することが多いです。
この記事では、値下げも値引きも同じ意味で用います。
値下げや値引きは、当事者間で決まるため、他の人が実際にいくらくらいの値引きをしているのか知る機会は多くありません。
そこで、私の方で、千葉市内で行われた100件のマンション取引の実データをもとに、値引きの傾向について集計・分析してみました。
この記事をお読みいただくことで、マンション取引の参考にしていただけると幸いです。
この記事の筆者:竹内英二 (不動産鑑定事務所:株式会社グロープロフィット代表取締役) 保有資格:不動産鑑定士・宅地建物取引士・中小企業診断士・不動産コンサルティングマスター・相続対策専門士・賃貸不動産経営管理士・不動産キャリアパーソン |
目次
1.一般的な値引きの傾向
最初にマクロ的なデータをもとに、一般的な値引きの傾向をご紹介します。
1-1.値引きしている人の割合
中古マンションの売買では、値引きが行われていることが一般的です。
では、一体どの程度の人が値引きを経験しているのでしょうか。
アットホーム株式会社による「中古物件の“売り手”と“買い手”のキモチ調査(2015.7.9調査)」では、295名の売主に対し「自宅の売却価格は、当初の予定よりも安くなりましたか?」という調査を行っています。
調査結果によると、54%の人が「下がった」と回答しており、少なくとも半数以上の人が値引きを経験していることが分かります。
「どちらでもない」という謎の回答をしている人が26%いますが、アンケートに説明がないため、「どちらでもない」ということの意味は分かりませんでした。
ひょっとしたら、売り出し価格よりは下げたけれども、当初予定していた想定の範囲内の人が含まれているのかもしれません。
一方で、ハッキリ「いいえ」と答えている人は20%だけです。
値引きを完全に免れている人は、20%程度ということが推測されます。
1-2.年代別にみる値引き率の動向
マンションの値引き率は売却する時期によっても異なります。
値引き率は、国内の景気が良く、マンション価格が高くなる時期に総じて低くなる傾向があります。
2019年7月時点では、マンション価格の高騰は続いているため、値引き率は低くなっている状況です。
以下に、東日本不動産流通機構より過去20年における首都圏の中古マンションの平均単価の推移と値引き率の推移を示します。
過去20年のマンション価格の推移を見ると、バブル崩壊後の失われた10年の期間の間は、価格が下がり続け、同時に値引き率が上昇しています。
その後、景気が上向き始めると、マンション価格が上がると同時に値引き率も下がっていきます。
一旦、リーマンショックや東日本大震災など、国内景気が悪化したときはマンション価格が下がりかけ、値引き率も高止まりしました。
その後、2013年以降はマンション価格が上昇し続けます。
値引き率は2016年まで一旦上昇したものの、2017年以降は下がり始めています。
2019年も引き続きマンション価格は高いため、値引き率はさらに下がっているものと思われます。
2019年においては、「売主は値下げされにくい」、「買主は値引きしにくい」状況であると言って良いでしょう。
1-3.築年数別による値引き率
マンションは築年数によっても値引き率が異なります。
以下のグラフは、公益財団法人東日本不動産流通機による「築年数から見た首都圏の不動産流通市場(2018年)」より築年数別の売り出し価格と成約価格との差から、筆者の方で値引き率を計算したグラフです。
値引き率は築6~20年あたりの物件が低く、10%程度です。
築21年以上となると大幅に値引き率が上がります。
また、築0~5年の物件も値引き率は大きいです。
築年数が高くなると値引き率が上がる理由として、築年数に関わらず「値引き額」には一定の相場があるということが原因です。
マンションの総額は、築年数が古くなると下がる傾向にあります。
例えば「値引き額50万円」という相場があったとすると、3,500万円の物件が50万円値引きされると1.4%しか値引きされませんが、1,000万円の物件が50万円値引きされると5%値引きされることになります。
値引きが「相場の一定額」で行われている状況では、築年数が古くて総額の安い物件ほど、「率」に与える影響は大きくなるため、築年数が古い物件ほど値引き率も上がっているのです。
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2.実データで見る値引き額の実態
この章では、千葉市内で直近1年間に取引された100件のマンション事例をもとに値引きについて検証していきます。
2-1.実データで見る値引き額の相場
データについては、マンションの「駅距離(駅からの徒歩分数)」と「築年数」に対する「値引き額」と「値引き率」を抽出し、一覧にしています。
下表は、「値引き額」の大きい順にNo.1~100まで並べたデータです。
(調査時点:2019年7月23日)
値引きが実施されているのは、100件中、74件(74%)でした。
一方で、100件中、26件(26%)は値引きされずに売却がなされています。
前章で示したアットホーム株式会社の調査では、20%の人が値下げせずに売ったという回答をしていますので、あながちアンケート結果とも乖離のない数値となっています。
値引き額については、10万円~230万円の間で実施されていました。
基本的には10万円単位の切りの良い数字で値引きが行われています。
値引きゼロを含む100件の平均値引き額は「50万円」でした。
値引きゼロを含まない74件の平均値引き額は「67万円」となっています。
値引き額のうち、最頻値も「50万円」であり、その数は100件中12件です。
「50万円」というのが、売主も応諾しやすく、買主も要求しやすいちょうど良い金額なのだと思われます。
100万円以上の値引きは、100件中15件しかないので、少数派といえます。
買主から100万円以上値引きするには、かなりのハードネゴが必要と言えるでしょう。
一方で、値引き率については、0.8%~23.3%の間で実施されていました。
一番値引き率の高い物件は、売り出し価格が430万円の物件でしたので、総額が小さいため値引き率の影響が大きくなっています。
値引きゼロを含む100件の平均値引き率は「4.7%」でした。
値引きゼロを含まない74件の平均値引き率は「6.3%」となっています。
値引き率の相場としては、5%程度といったところでしょう。
2-2.駅距離と値引きの関係
ここでは、「駅距離」と「値引き」の関係について見ていきます。
上グラフは横軸が「駅距離」です。
青のプロットが「値引き額(左縦軸)」、赤のプロットが「値引き率(右縦軸)」となっています。
プロットだけだとバラバラ過ぎて傾向が分からないため、線形近似直線を加えています。
線形近似直線とは、散布図において、予定値を求める際に用いられる直線のことです。
青の直線が「値引き額」の傾向、赤の直線が「値引き率」の傾向を表しています。
値引き額については、50万円前後を中心に、駅距離が遠くなるほど下がる傾向にありました。
意外な結果ですが、駅から近い立地の良い物件ほど大きな金額の値引きを受けているということです。
立地の良い物件では、総額も大きくなる傾向にあることから、数パーセントの値引きでも金額が大きくなることが原因と考えられます。
値引き率については、5%を中心に駅から離れるほど上昇する傾向が見られました。
2-3.築年数と値引きの関係
次に、「築年数」と「値引き」の関係について見ていきます。
上グラフは横軸が「築年数」です。
青のプロットが「値引き額(左縦軸)」、赤のプロットが「値引き率(右縦軸)」となっています。
それぞれの線形近似直線によって、青の直線が「値引き額」の傾向、赤の直線が「値引き率」の傾向を表しています。
値引き額については、50万円前後を中心に、築年数が古くなるほど下がる傾向にありました。
値引き率については、5%を中心に築年数が古くなるほど上昇する傾向が見られました。
値引き額については「駅距離」も「築年数」も上限が悪くなるほど小さくなり、値引率については「駅距離」も「築年数」も上限が悪くなるほど大きくなるという傾向は同じです。
「駅から近い」、「築年数が浅い」といった物件は、総額が大きいため、値引き額もそれなりに大きくなるということが分かります。
条件が良いから値引きされないというわけではなく、条件が良い物件でも高過ぎれば大きく値引きされるということになります。
3.値引きの原因
では、値引きが大きい物件と、値引きが全くない物件は一体何が違うのでしょうか。
この章では値引きの原因について解説します。
3-1.値引きが必要となるのは売り出し価格が高過ぎるため
値引きの原因は、ズバリ売り出し価格が高過ぎるというのが原因です。
物件には全く問題がありません。
売り出し価格が高くなる原因は、査定価格が高過ぎることが原因です。
査定価格とは、本来は3ヶ月程度で売却できる価格ですが、不動産会社にとっては媒介契約を取るための「営業用の価格」でもあります。
媒介契約とは、売主が不動産会社に依頼する仲介の契約のことです。
実際には3,500万円でしか売れないマンションであったとしても、A社は正直に3,500万円と査定し、B社は4,000万円と査定してきたら、売主としてはB社に依頼したくなります。
査定価格は、売却を保証する価格ではないため、不動産会社は媒介契約を取りたいがために、査定価格を実際に売れる価格よりも高く査定する傾向にあるのです。
高い査定価格に釣られて、売り出し価格を高く設定してしまうと、結果的に、値引きを受けるということになります。
前章で紹介したデータの中で、最大の値引き額を記録した物件は、実は同じマンションの他の部屋が値引き額はゼロで売れています。
具体的には前章の表のうち、No.1とNo.94の物件は、同じマンションの他の部屋の物件となります。
No.1の物件は、値引き後、No.94と同水準の金額で売却されています。
No.1とNo.94では、売り出し価格に違いがあるだけです。
100件の事例の中には、他にも同じマンションで値引きされている物件と値引きされていない物件が混在している状態です。
つまり、売り出し価格を高めの金額で設定している物件は値引きを受け、適正な金額で設定している物件は値引きを受けていないことになります。
売主からすると、値引きをしたくないのであれば、最初から適正価格で売り出し価格を設定することが重要です。
それに対して、買主からすると、値引きをしたいのであれば、高めの物件でない限り値引きは難しいといえます。
最初から適正価格の物件は2~3割は存在するので、そのような物件の値引きは難しいということも知っておきましょう。
3-2.値引きゼロの物件の傾向
100件のデータのうち、値引きがゼロだったマンションの「駅距離」と「築年数」の分布状況をプロットすると以下のようになります。
値引きゼロの物件には、特に傾向がないということが特徴です。
立地条件が良い物件にも存在しますし、立地条件が悪い物件にも存在します。
また築年数が浅い物件にも存在し、築年数が古い物件にも存在している状況です。
特に、悪条件の物件でも、値引きされていない物件は存在するということがポイントとなります。
つまり、「立地が良いから値引きされない」とか、「築年数が古いから値引きされやすい」ということではないということです。
結論としては、売り出し価格が高過ぎると値引きされ、売り出し価格が適正だと値引きされないということになります。
値引きを防ぐのであれば売り出し価格を適正に設定するようにしましょう。
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4.値引きのタイミング
この章では、値引きのタイミングについて解説致します。
4-1.売主が自ら下げるべきタイミング
もし、マンションが3ヶ月を経過しても売れない場合、4ヵ月目からは売主が自ら値引きをすべきです。
マンションの販売期間の平均は3ヶ月ですので、3ヶ月を超えても売れないような場合には、売主が自ら値段を下げるべきタイミングといえます。
公益財団法人東日本不動産流通機による「首都圏不動産流通市場の動向(2018年) 」では、販売期間の平均日数を公表しています。
過去10年間の平均日数を見てみると、以下のグラフの通りです。
2018年の平均日数は「78.8日」です。
販売期間としては、約2.6ヶ月で売れていることになります。
マンションの査定価格とは、3ヶ月程度で売れると予想される価格を出しています。
実際の平均日数も3ヶ月以内で売れていますので、3ヶ月も経って売れない場合には、売り出し価格が高過ぎるということです。
査定価格を参考に売り出し価格を決定している場合には、査定価格が高過ぎる可能性があります。
もし、複数の不動産会社から査定を取っていた場合には、複数の不動産会社の価格が似たり寄ったりの価格を出していたゾーンが適正価格ということになります。
突出して高かった査定価格は高過ぎる価格ですので、そのような価格を採用していた場合、見直しが必要です。
また、複数の不動産会社に査定を取っていなかった場合には、査定を取り直して不動産会社も変えることをおススメします。
専任媒介契約を締結していた場合、3ヶ月で契約していると思われますので、そのタイミングで切り替えるようにしてください。
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尚、マンション査定なら、一括査定サイトの中でHOME4Uがおススメです。
以下にオリコンが公表している「実際の利用者が評価した、オリコン顧客満足度ランキング(マンション編)」を示します。
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4-2.買主から交渉するタイミング
中古マンションの購入では、購入したい物件が決まった時点で、「買付証明書」という書類を提示します。
買付証明書は、あくまでも買主の意思を表明するだけの書面であり、買付証明書を出したからといって売買契約が成立するものではありません。
買主から値引き交渉をするタイミングは、この買付証明書の提出が交渉のスタートとなります。
買付証明書には、「購入希望金額」の欄がありますので、そこに値引きした金額を記載するようにしてください。
購入希望者は、マンションを内覧しますが、内覧の時点では売主とは交渉しません。
内覧とは、購入したみたい物件の中を実際に見る行為です。
内覧でじっくり物件を確認後、買付証明書という書面によって購入希望者の意思を伝えます。
買付証明書に要求額を提示し、売主がその要求に応諾すれば交渉成立です。
売主が買付証明書の金額を否認してしまえば、購入できません。
購入は、基本的には早いもの勝ちですが、それはあくまでも満額回答の人が優先となります。
すぐ後に満額回答をする購入希望者が現れれば、売主はそちらの人に売っても良いわけです。
値引きも過度な要求をすれば、売主にすぐに否決されてしまいます。
100万円以上の値引きを要求する場合には、相場を良く調べてから購入希望額を記載した方が良いです。
高いのか安いのかよく分からない、それでも値引きしたいという場合には、とりあえず相場の「50万円」、もしくは「5%」の値引きを要求するのが無難かもしれません。
ただし、どうしても欲しい物件は値引きせずに満額で買った方が良いです。
50万円程度の値引きで他の人に取られてしまうのはもったいないので、気に入った物件があれば満額で押さえてしまうことをおススメします。
4-3.値引きされやすい季節はない
マンションは、2~3月の移動シーズンが売りやすく、お盆がある8月は売りにくいという性質があります。
ところが、値引きについては特に季節変動はありません。
以下は、東日本不動産流通機構が示している首都圏の中古マンションの過去5年における月別の売出価格と成約価格を用いて、私の方で値引き率を求めました。
橙色は5年間の平均値です。
月ごとの値引き状況については、各年バラバラの結果です。
物件が動きにくい8月でも、特に値引き率が上がるわけではありません。
2~3月も値引き率が下がっているという傾向もないです。
結局のところ、値引きについては「売りやすさ」や「売りにくさ」は関係ないことになります。
売りにくい物件でも値引きゼロの物件があるように、値引きが発生するか否かは「適正な売り出し価格であるかどうか」で決まるということです。
1年を通じて値引きされやすい時期、もしくは値引きされにくい時期は特に存在しないということも知っておきましょう。
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5.まとめ
以上、マンションの値下げや値引きの相場について解説してきました。
値引きの相場については、「50万円」です。
統計上、世の中の7~8割の物件が値引きを実施しています。
値引きについては、条件が悪い物件ほど値引きを受けやすいとは限りません。
条件が良くても売り出し価格が高過ぎれば値引きされ、条件が悪くても適正な売り出し価格なら値引きは実施されていないのが実態です。
ここ数年は、値引き率が下がっていますので、この記事を参考にしていただければと思います。
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